ヒッチハイク中に出会ったキャンピングカー 7/7

「どういう事だよ・・・」とカズヤ。

こっちが聞きたいくらいだった。

 

近づいて確認したが、

 

間違いなくあの変態一家の

キャンピングカーだった。

 

周囲の明るさ、車の通過する音などで

安心感はあり、

 

恐怖感よりも「なぜ?」という、

好奇心が勝っていた。

 

錆付いたドアを引き開け、

酷い匂いのする車内を覗き込む。

 

「オイオイオイオイ、リュック!!

俺らのリュックじゃねぇか!!」

 

カズヤが叫ぶ。

 

・・・確かに、

俺達が車内に置いて逃げたリュックが、

2つ置いてあった。

 

しかし、車体と同様に、

まるで何十年も放置されていたかの如く、

ボロボロに朽ち果てていた。

 

中身を確認すると、服や日用雑貨品も

同様に朽ち果てていた。

 

「どういう事だよ・・・」

 

もう一度、カズヤが呟いた。

 

何が何だか、もはや脳は

正常な思考が出来なかった。

 

とにかく、一時も早くこの忌まわしい

キャンピングカーから離れたかった。

 

「行こう、行こう」

 

カズヤも怯えている。

 

車内を出ようとしたその時、

キャンピングカーの一番奥のドアの向こうで、

 

「ガタッ」と音がした。

 

ドアは閉まっている。

開ける勇気はない。

 

俺達は恐怖で半ばパニックに

なっていたので、

 

そう聞こえたかどうかは、

今となってはわからないし、

 

もしかしたら、

猫の鳴き声だったかもしれない。

 

が、確かに。

 

その奥のドアの向こうで、

その時はそう聞こえたのだ。

 

「マーマ!!」

 

俺達は、叫びながらトラックに

駆け戻った。

 

するとなぜか、ドライバーも

顔が心なしか青ざめている様に見えた。

 

無言でトラックを発進させるドライバー。

 

「何かあったか?」

「何かありました?」

 

同時にドライバーと俺が声を発した。

 

ドライバーは苦笑し、

 

「いや・・・

俺の見間違いかもしれないけどさ・・・

 

あの廃車・・・

お前ら以外に誰もいなかったよな?

 

いや、いるわけないんだけどさ・・・

いや、やっぱいいわ」

 

「気になります、言って下さいよ」

 

とカズヤ。

 

「いやさ・・・

見えたような気がしたんだよ。

 

カウボーイハット?

って言うのか・・・

 

日本でいったら、

ボーイスカウトが被るような。

 

それを被った人影が見えた気が・・・

 

でよ、何故かゾクッとしたその瞬間、

俺の耳元で口笛が聞こえてよ・・・」

 

「どんな感じの・・・口笛ですか?」

 

「曲名はわかんねぇけど、

こんな感じでよ(口笛を吹く)・・・

 

いやいやいや、何でもねぇんだよ!

俺も疲れてるのかね」

 

運転手は笑っていたが、

 

運転手が再現してみた口笛は、

ミッ○ーマ○スのマーチだった。

 

30分ほど、無言のまま

トラックは走っていた。

 

そして市街も近くなったという事で、

最後にどうしても聞いておきたい事を、

俺はドライバーに聞いてみた。

 

「あの、最初に乗せてもらった国道の近くに、

山ありますよね?」

 

「あぁ、それが?」

 

「あそこで前に、何か事件とか

あったりしました?」

 

「事件・・・?いやぁ聞かねぇなぁ・・・

山つっても、3つくらい連なってるからなぁ、

あの辺は。

 

あ~でも、あの辺の山で大分昔に、

若い女が殺された事件があったとか・・・

それくらいかぁ?

 

後は、普通にイノシシの被害だな。

怖いぜ、野生のイノシシは」

 

「女が殺された所って」

「トイレすか?」

 

カズヤが俺の言葉に、

食い気味に入ってきた。

 

「あぁ、確かそう。何で知ってる?」

 

市街まで送ってもらった運転手に礼を言い、

安心感からか、その日はホテルで爆睡した。

 

翌日~翌々日には、

俺達は新幹線を乗り継いで

地元に帰っていた。

 

なるべく思い出したくない

悪夢の様な出来事だったが、

時々思い出してしまう。

 

あの一家は一体何だったのか?

実在の変態一家なのか?

幻なのか?

この世の者ではないのか?

 

あの山のトイレで確かに聞こえた、

女の子の泣き叫ぶ声は何だったのか?

 

ボロボロに朽ち果てたキャンピングカー、

同じように朽ちた俺達のリュックは、

一体何を意味するのか?

 

「おっ♪おっ♪おま○こ、おま○こ

舐めたいなっ♪ペロペロ~、ペロペロ~」

 

先日の合コンが上手くいったカズヤの

テンションが上がっている。

 

たまに遊ぶ悪友との仲は、

今でも変わらない。

 

コイツの底抜けに明るい性格に、

あの悪夢の様な旅の出来事が、

いくらか気持ち的に助けられた気がする。

 

30にも手が届こうかとしている現在、

俺達は無事に就職も出来(大分前ではあるが)

普通に暮らしている。

 

カズヤは、未だにキャンピングカーを見ると

駄目らしい。

 

俺は、あのミッ○ーマ○スのマーチが

トラウマになっている。

 

チャンララン、チャンララン、チャンラランララン、

チャンララン、チャンララン、チャンラランララン♪

 

先日の合コンの際も、女性陣の中に

一人この携帯着信音の子がおり、

心臓が縮み上がったものだ。

 

今でもあの一家、とくに大男の口笛が

夢に出てくる事がある。

 

(終)

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