異界 2/4

野良犬自体なら、

この公園近辺には多くいる。

 

観光客がくれる餌を求めて

やって来ているのだ。

 

けれど、目の前で横たわる犬は

首輪をしているように見えた。

 

そのまま犬の傍を通り過ぎ

前へと進むか、

 

そうでなければこのまま

引き返して来た道を戻るか。

 

僕は選ばなければならなかった。

少しばかり迷う。

 

そうしてから、僕はゆっくりと

足を前に踏み出した。

 

正直、死骸は怖かった。

 

いや、怖いというよりは、

ただの毛嫌いだったのかもしれない。

 

ドラマなどで見る

安っぽい死ではなく、

 

目の前の犬の肉体は

限りなくリアルだった。

 

そうして、

 

だからこそ、

 

気持ち悪いから逃げ帰るなんて

失礼だと思った。

 

死骸の様子を間近で見る。

途端に一つ心臓が跳ねた。

 

首輪だと思っていたものは

傷口だった。

 

喉元がばっくり開いていて、

 

そこから染み出した血が黒く固まり、

首輪のように見えたのだ。

 

犬同士の喧嘩の末に

こうなったのだろうか。

 

しかし、

傷口は噛み痕には見えず、

 

何か刃物で切られたように

まっすぐ喉を裂いていた。

 

注視したせいか、

吐き気を覚える。

 

やっぱり引き返した方が

良かっただろうか。

 

白い歯が覗く半開きの口は、

僕に何かを訴えているようにも見え、

 

頭が勝手に、目の前の死骸が

いきなり喋り出す様を想像した。

 

ただの穴となった眼窩から

蠅が飛び出して、

 

僕の胸に止まる。

 

不安と一緒に払いのけて、

犬に向かって手を合わせた。

 

そうして僕は犬の死骸を背に、

その先へと進んだ。

 

先程も書いたが、

僕はこの道は、

 

どこか住宅地から寺や公園へ上がる

いくつかの道のどれかに合流するんだと、

 

勝手に思い込んでいた。

 

犬の死骸のあった場所から

もう少し進むと、

 

足元に道は無くなり、

閑散と木の生えた場所に出た。

 

見たところ、

行き止まりのようだった。

 

目の前の木の枝に、

 

キャップ帽とトレーナーが一着

引っ掛かっていた。

 

二つとも色が落ち、

くすんでいる。

 

その木の根元には、

 

蓋の取っ手が取れた

やかんがあった。

 

やかんの向こうには、

 

トタン板と木材が妙な具合に

重なり合って置かれていて、

 

傍にコンクリートブロックで出来た

竈のようなものがある。

 

火を起こした跡もあった。

 

その他にも、

 

辺りには金色の鍋や、

茶色い水の溜まったペットボトル、

 

ボロボロの布切れ、

重ねて置いてある食器類、

 

何故か鳥籠もあった。

 

中には鳥ではなく、

 

白い棒きれのようなものが

何本か入っていた。

 

一瞬それが骨に見えて、

ギョッとする。

 

でも鳥の骨にしては大きい。

だったら骨じゃない。

 

けれどもじゃあ何なのかと問われると、

僕には答えられなかった。

 

いずれにせよ、

 

それらは確かにこの場所で

人が暮らしていたという痕跡だった。

 

崩れたトタン板や木材は

家の名残だろうか。

 

そこにある品々の古さや具合から、

 

今もここに人が寝泊まりしているとは

考えにくかったが、

 

林の中で忽然と漂ってきた生活臭は、

あまり気持ちの良いものではなかった。

 

すでに冒険心は小さくしぼんで、

 

代わりに不安という風船が

大きく膨らんできていた。

 

ホームレスだろうか。

 

つい先程見た犬の死骸を思い出す。

関連があるとは思いたくないが。

 

いずれにせよ、

 

こんなところでこんなところの住人と

対面するのは極力遠慮したかった。

 

ただそうは言っても、

来た道を引き返し、

 

またあの犬の死骸の脇を通る

というのも気が進まない。

 

辺りは徐々に暗くなり始めていた。

時刻は午後の六時を過ぎている。

 

他に道はないかと、

僕は周囲を見回した。

 

すると、行き止まりかと

思っていた箇所に、

 

辛うじてそれと分かる

上へと続く道があった。

 

戻るか進むか天秤にかける。

僕は迷っていた。

 

この道が本当に

どこか知っている道に合流している、

 

という自信は霞みかけていたし、

 

犬の死骸を踏み越えても

元来た道を戻るのが正解に思えた。

 

その時だった。

 

気配を感じる。

微かに枝を踏む音。

 

僕がやって来た方の

道から聞こえた。

 

誰かがこちらへやって来る。

 

新たな重りが加わり

天秤が傾く。

 

僕はとっさに新しく見つけた

道へと進んでいた。

 

僕のような好奇心で

やって来た者か。

 

もしくはここに住む

ホームレスか。

 

どっちにせよ、

遭遇はしたくない。

 

急な道だった。

 

道の途中にはもう数ヶ所、

人の寝床と思しき箇所があった。

 

それは大きく突き出た

岩の下に造ってあったり、

 

小型車程の大きさの廃材を使った

あばら家だったり、

 

ある程度密集したそれらは、

まるで集落のように見えた。

 

上って行くにつれて

道は霧散し、

 

もうケモノ道とも呼べない

ただの斜面になっていた。

 

(続く)異界 3/4へ

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