千体坊主「晴」 4/4

日が出たと言っても、

 

大学までの道に

人影はほとんど無い。

 

戻って来た学生寮の周辺も

そうだった。

 

ここに戻って来た時、

僕はどうしてか、

 

幼少時、

母に怒られて家を飛び出したあと、

 

そろそろと足音を立てないで、

 

家の窓から侵入した時のことを

思い出していた。

 

なんだか妙に後ろめたい、

という感覚。

 

ただ、Sはそんな思いは

微塵も感じていない様で、

 

車を降りてずかずかと、

寮の中に入って行った。

 

Sは二階のKの部屋まで一直線に、

 

僕はそろりそろりと、

その後ろを付いて行く。

 

一階の集合ポストに

新聞が挟んであったので、

 

ついでにKの分を抜き取る。

 

部屋の中でKは、

 

僕らが出て行った時と同じ体勢で

作業台の横に倒れていた。

 

Sがその背中を軽く蹴る。 

起きない。

 

蹴る。 

起きない。

 

それからSはKの上半身を

背後から抱き起こすと、

 

両脇の下から腕を入れて、

両手をKの首の後ろで固定する。

 

その状態でSが「んっ」と

力を入れると、

 

Kの半開きの口から「ほひゅっ」と、

変な音が漏れた。

 

K「・・・う、うおう!?」

 

Kが起きた。

 

するとSは、

 

すかさずKの目の前に

自分の手をかざし、

 

人差し指と中指と薬指を立て、

極々小さな声で言った。

 

S「・・・何本だ?」

 

Kは未だに状況が

上手く掴めていないらしく、

 

数回高速で瞬きした。

 

S「何本だ?」

 

Sがもう一度、

囁くように訊く。

 

K「う、あ?・・・あ。えー、

三本、だ?」

 

S「よし。耳は聞こえてるな。

目も意識も問題ないようだ」

 

そこでKはようやく自分の変化に

気がついたようだった。

 

K「お、おー!ホントだ。

雨が、やんでら・・・」

 

それを聞いた瞬間、

 

僕の中で張りつめていたものが、

煙の様な音を立てて抜けていった。

 

安心すると、

 

油断をしたのか腹の底から

大きな大きなあくびが出た。

 

そのせいでちょっと涙が混じった。

 

あくびがてらに、

 

上手く呑み込めていないKに

状況の説明をしてやった。

 

こっちは真剣に話しているのに、

 

相槌がいちいち「へーえ」とか、

「ほーお」とかばかりだったのが

気になったが、

 

まあ、それは良いとしておこう。

 

K「・・・呪いかよ。こえーなあ、

しかも無差別なんだろ?」

 

S「インターネットの様な環境は、

そういうものをばらまくのに最適だからな。

 

まあ、そんなもんに迂闊に

手を出す奴も悪いんだが」

 

K「あー、いや。マジ反省してる。

・・・今回はキツかった。

いや、マジまいった。

 

次からはさ、

こういうことの無い様にすっから」

 

S「次があったら見殺すぞ。

あとバイト代よこせよコラ」

 

K「はっはっは。またまた冗談を」

 

そんな今日も冴えている

漫才コンビの後ろで、

 

僕は先程ポストから持って来た、

今日の朝刊の週間天気の欄を見ていた。

 

六日間晴れマークの続いた後に、

ぽつんと傘のマークが付いている。

 

ふと思い出す。

 

もしも、今回のことが

呪いのせいならば、

 

僕がKの耳元で聞いた

あの本物の雨の音も、

 

やっぱり呪いの類

だったのだろうか、と。

 

分からない。

呪いは伝染するのかもしれない。

 

良い意味でも悪い意味でも。

 

その証拠に、

 

SがKを絞め落とす際に見せた

ノートに書いた言葉、

 

机の上に開きっぱなしに

なっているそれには、

 

『耳鳴りで眠れないか?』

の下に走り書きで、

 

『目が覚めたら、全部終わってる』

と書かれていた。

 

もしかしたら、

 

これがSの言っていた

呪いには呪いというヤツだろうか。

 

ちなみに、

 

四コマ漫画『わたる君』の

今日のネタは、

 

『どうしても遠足に行きたいわたる君が、

てるてる坊主を百個作ってベランダに吊るして、

作り過ぎだとお天道様に呆れられる』

 

というものだった。

 

Kに見せると、

 

K「ギャグ漫画にリアルで勝つとか

オカルトだろ・・・」

 

などと、訳の分からないことを

口走っていた。

 

(終)

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