怪物 「起」 5/5

小石

 

そんな説明に続いて、

具体的な事例が挙がっている。

 

カエルや魚が降ったというケースが

多いようだ。

 

1954年イギリス、

 

バーミンガムのサトンパークでは

海軍のセレモニーの最中、

 

雨とともに何百匹、何千匹という

カエルが空から降って来て、

 

見物人たちの傘にぶつかり、

 

地面に落ちたあともピョンピョンと

飛び跳ねていたという。

 

1922年フランスの

シャロン=シュル=ソーヌでは、

 

二日間にも渡ってカエルの雨が降り続いたと、

当時の新聞が伝えている。

 

近年の例では、

 

1989年オーストラリアのクィーンズランド州で、

民家の庭に1000匹のイワシが降ったとされる。

 

私はそんな膨大な事例の中から、

石が降ったという記録を探し出していった。

 

1968年宮崎県の迫町で、

ある薬局に小石の雨が降り、

 

それが誰の悪戯とも判明しないまま

半年間も続いたという事例。

 

そして1820年、

 

イギリスのサウスウッドフォードでは、

ある家に石の雨が降り、

 

通報によって警察官が配置される

事態となったが、

 

結局、その石がどこからやって来るのか

分からなかったという事例。

 

1922年カリフォルニア州チコの町の

片隅に降った石の雨は、

 

その現象が数ヶ月にも及んだが、

 

大学の調査チームにも

その正体が分からなかった。

 

まだまだあったが、

どれにも共通しているのは、

 

石の雨が広範囲に渡って

降ったというわけではなく、

 

むしろ極めて狭い範囲に

集中してたということだろう。

 

1820年、

小石川の高坂鍋五郎の屋敷だとか、

 

1600年代、

 

ニュー・ハンプシャーのジョージ・ウォルトン

の屋敷だとかという記録を見ると、

 

実にその個人に対して、

 

石の雨という攻撃が行われているような

感想を覚える。

 

まるで、

 

その家の持ち主に恨みを持つ人間の仕業

であるかのような気がする。

 

石がどこから来るのか分からない

と言っても、

 

誰かが見張っている時には、

その悪戯を決行しなければいいだけの話だ。

 

そして監視がない時を見計らって、

物陰から投石をする。

 

その場に居合わせない人間が考えると

単純な構造に思えるけれど、

 

実際はどうなのだろうか。

 

その『世界の怪奇現象ファイル』には、

 

このファフロツキーズ現象についての

いくつかの仮説が紹介されていた。

 

チャールズ・フォートは、

 

地上からのテレポーテーションによって

移動した魚やカエルなどが、

 

大気圏中のある空間に蓄えられ、

 

それが時に奇怪な雨となって

地上に降り注ぐのだと考えた。

 

他にもプラズマや空中携挙といった

荒唐無稽な説もあったが、

 

現実的に思えたのは、

飛行機からの落下説と竜巻説だった。

 

飛行機説は、

 

ほとんどの落下物を説明しうる

可能性を持っているが、

 

個々の事例において、

その飛行機の目撃が否定されるケースが多く、

 

魚介類の落下など、

時代的に飛行機の登場の前後にあっても、

 

その出現パターンが変わらないように

見える事例を解釈し辛い。

 

また、同じ場所に長期間に渡って

その現象が続くケースの説明にはならない。

 

竜巻説は、

 

地上の物体を空中に巻き上げて移動させ、

別の場所に落下させるという、

 

現実に観測されるありふれた自然現象なので、

もっとも有力な説にも思える。

 

しかし、

 

カエルばかりだとか、

ニシンばかりだとか、

トウモロコシばかりだとか、

 

1種類の動植物のみが落下する

ことの説明となると苦しい。

 

竜巻がそんなものを選り分けている

のならともかく、

 

地上にあっては、

 

他の動植物や石や砂を

同時に巻き上げているはずだし、

 

海や川にあっては、

 

水と一緒に水中の生物を種別に関わりなく

吸い上げているはずだからだ。

 

空中に上ったあとで、

その空気抵抗に応じた落下のタイミングが、

 

それぞれ同じ種別を

自然と振り分けるのではないか、

 

という、もっともらしい解釈もあるが、

 

やはり、同じ場所に降り続ける

ケースの説明が出来ないし、

 

周囲数百キロ圏内に、

 

その動植物が存在しないというケースも

多々あるのだ。

 

そんな解説をつらつらと読んでいて思った。

 

個々のケースを、

 

同じ現象で説明しようとするから

ややこしいんじゃないかと。

 

これは竜巻、これは飛行機、

これはイタズラ、そしてこれは嘘。

 

そんな風に分けて考えれば、

案外シンプルなんじゃないか。

 

立ち上がり、

壁に掛けたスカートのポケットを探る。

 

そして、

 

昼間にあの路地で拾った石を取り出して、

テーブルの上に置いた。

 

「これは、なんだろうな」

 

そう呟いて指でつつくと、

それはコトンと音を立てて傾いた。

 

『世界の怪奇現象ファイル』

 

を本棚に仕舞い、

 

読み疲れた目頭を手の平の腹で

抑えながらベッドに横になる。

 

その夜、

私は母親を殺す夢を見た。

 

(終)

次の話・・・「三人目の大人 1/2

原作者ウニさんのページ(pixiv)

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