怪物 「承」 1/4

エキドナ

 

前回の話・・・「怪物 「起」 1/5

怖い夢を見ていた気がする。

 

朝の光がやけに騒々しく感じる。

 

天井を見上げながら、

両手を頭の上に挙げて伸びをする。

 

自分が嫌な汗を掻いていることに気づく。

 

掛け布団を跳ね除けて、

身体を起こす。

 

夢の残滓が、

まだ頭の中に残っている。

 

※残滓(ざんさい)

のこりかす。

 

現実の眼は閉じられていたのに、

 

視覚情報として記憶に刻み込まれた

夢の光景。

 

今まで不思議だとは思わなかったのに、

今日はそれが酷く奇妙なことに思えた。

 

夢の中で私は、

やけに暗い部屋に一人でいる。

 

散らかった壁際に、

じっと座ってなにかを待っている。

 

やがて外から足音が聞こえて、

私は動き出す。

 

玄関に立ち、

ドアに耳をつけて息を殺す。

 

足音が下から登ってくる。

 

私はその足音が母親のだと知っている。

 

やがて、

その音がドアの前で止まる。

 

ドンドンドンという、

ドアを叩く振動。

 

背伸びをして、

チェーンを外す。

 

そしてロックをカチリと捻る。

 

ドアが開けられ、

私はその向こうに立っている人間に、

 

話しかけることも、

笑いかけることも、

 

耳を傾けることもしなかった。

 

ただ、月だけがその背中越しに

冴えている。

 

そして、血飛沫が舞って、

私の視界を真っ赤に染める。

 

※血飛沫(ちしぶき)

 

世界がたったの一つの色になる。

 

母親は崩れ落ち、

もう呼吸をしなくなる・・・

 

「うああ」

 

ベッドのシーツを握り締めながら、

思わずそんな声が出た。

 

自分でも驚いた。

 

それは恐怖心を身体の内側から逃がすための、

自己防衛本能だったのかも知れない。

 

すぐに冷静になる。

 

生々しい夢だった。

 

母親とは最近衝突することが多いが、

まさか殺してしまう夢を見るなんて。

 

これが私の潜在意識の底にある、

願望なのだろうか。

 

と、思うと寒気がしてくる。

 

この間からずっと見ていた怖い夢は、

この夢だったのだろうか?

 

壁のカレンダーを見る。

 

木曜日。

 

今日も学校がある。

 

憂鬱だ。

 

その頃になって、

ようやく窓の外の音に気がついた。

 

遠くで釘を打っているような音。

 

いや、ハンマーで杭を

叩いている音か。

 

どちらにしても耳障りだ。

 

イライラとしながら服に着替える。

 

母親が起こしに来る前に。

 

今日もスズメの鳴き声は聞こえない。

 

代わりの朝のリズムが、

こんな不快な音だなんて。

 

そのせいであんな夢を見たのだろうか。

 

そうだったらまだいい。

 

その日の朝の食卓は気まずかった。

 

学校へ向かう途中、

私はどこで工事をしているのかと思い、

 

音を頼りにキョロキョロとしていたが

出処は判然としなかった。

 

やがて、

その耳障りな音も途絶える。

 

こんな平日の朝早くから迷惑だな。

 

その時はまだ、

その程度に思っていただけだった。

 

遅刻寸前で教室に滑り込んだ直後の

ホームルーム中、

 

先生が意外なことを言った。

 

「昨日は変な一日だったなぁ。

新聞見たか。あれ、近所なんだよ」

 

石の雨のことだ。

 

そう思ったけれど、

そのすぐ後に先生はボソリと言った。

 

「木がなあ・・・」

 

木?

 

首を傾げていると、

 

さっさと話題を切り上げて、

先生は教室を出て行った。

 

1時間目が始まる前に、

出来るだけ情報収集する。

 

いつもはあまりクラスメートと

会話をしない私だが、

 

なりふり構っていられない気分だった。

 

すぐにさっき先生が言っていたのが、

 

昨日の夕刊ではなく、

今日の朝刊だったことが分かる。

 

しまった。

 

読んでいなかった。

 

母親に怒られてでも、

食べながら読めばよかった。

 

話を総合するに、

どうやらこんなことがあったらしい。

 

昨日の夜9時過ぎ、

 

市内の住宅地の道路沿いの並木が

15メートルに渡って何者かに掘り返され、

 

根っこごと引っこ抜かれて

その場に転がされているのを、

 

通りがかった住民によって発見された。

 

付近の住民によると、

 

夜9時前には間違いなく並木は

いつも通り揃っていたらしい。

 

わずか数十分で6本もの成木を

土から引っこ抜くとなると、

 

重機でもなければ不可能だろう。

 

それが、

 

周辺住民の誰もそんな騒動に

気づかなかったというのだ。

 

一体誰が?という疑問とともに、

どうやって?という点も大きい。

 

そして何故?

 

けれど私がもっと驚いたのは、

次の休み時間だった。

 

チャイムが鳴った後、

 

教室中で交換される情報に

耳をそばだてていた私は、

 

この街で昨日起こったことが、

 

石の雨や並木の事件だけでは

なかったことを知った。

 

市民図書館の本棚の一つから、

 

収められていた本が

いきなりすべて飛び出して、

 

床中に散乱した事件。

 

天井からぶら下がった

ガソリンスタンドの給油ホースが、

 

風もないのに大揺れをして、

1時間近く給油できなかった事件。

 

アーケード内の大時計の短針と長針が、

 

何もしていないのにぐるぐると

高速で回り続けた事件。

 

駅前のビルが原因不明の停電に襲われ、

 

その後、フロアごとにでたらめな

照明の点滅を繰り返したという事件。

 

どれも不思議な出来事ばかりだ。

 

(続く)怪物 「承」 2/4

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