怪物 「承」 3/4

エキドナ

 

そして、

 

ドアに向かうため踵を返そうとした

私の顔の近くで、

 

「やっとデートに誘ってくれたわね」

 

と言う。

 

やっぱり出た。

 

ムカッとしながら、

それを無視してさっさと教室から出る。

 

私たちは非常口の外の階段まで歩いた。

 

風が首筋を吹き抜け、

空から夏の陽射しが降り注いでくる。

 

他に人はいない。

 

「で」

 

間崎京子は手すりに身を寄せて

地面を見下ろした後、

 

顔をこちらに向ける。

 

「知っていることを全部話せ」

 

「・・・唐突ね」

 

さして驚いた様子もなく、

京子はニコリと笑う。

 

私はこの女と腹の探り合いをすることの

面倒さを考慮して、

 

こちらが知っていることを

すべて並べ立てた。

 

本を買って調べた『ファフロツキーズ』

のことまで。

 

ファフロツキーズ(wikipedia)

一定範囲に多数の物体が落下する現象のうち、雨・雪・黄砂・隕石のようなよく知られた原因によるものを除く「その場にあるはずのないもの」が空から降ってくる現象を指す。

 

彼女はそれを面白そうに聞きながら、

ワザとらしい動きで、

 

(あご)を右手の親指と人差し指で

挟む仕草をする。

 

「不思議ね」

 

「それだけか」

 

この何もかも見通しているような女が、

 

街に起こりつつある異変を

察知していないはずはない。

 

「不思議ね、

 

と言うだけで満足する人たち

のようにはなれないのね。

 

あなたは」

 

まるで100点を取った子どもを

褒めるような口調だった。

 

そうして京子は視線を逸らし、

遠くの街並みに目を向ける。

 

つられて私も、

 

初夏の陽射しを照り返して浮かび上がる、

建物の屋根に目を細める。

 

「大したことじゃないけど、

『ファフロツキーズ』って、

 

チャールズ・フォートの言い出した

言葉じゃないわ。

 

アイバン・T・サンダーソンの命名よ」

 

京子は街を見下ろしたまま、

淡々と言った。

 

「チャールズ・フォートこそ、

 

『ファフロツキーズ』という言葉に

振り回された人間だったのかも知れない。

 

空から落ちてきた物を、

 

全て一つの概念にまとめようというのが

どれだけ無謀なことだったか、

 

なんとなく分かるでしょう?」

 

前から思っていたが、

 

こいつはなんでこんなに偉そうな

物言いをするのだろう。

 

「あなたも一度、

 

その『ファフロツキーズ』という

言葉を捨てて、

 

考えてみたらどうかしら」

 

その問いかけは単純な忠告なのか、

それとも、

 

この異変の正体を知った上で、

私に与えているヒントなのか。

 

私は京子の横顔を睨みつける。

 

「もうすぐチャイムが鳴るね」

 

京子は手すりから手を離し、

私に向き合った。

 

「クイズ」

 

「は?」

 

「クイズを出すからよく聞いてね」

 

相変わらず唐突だ。

 

思考を読めない。

 

「朝は4本足、昼は2本足、

夜は3本足。これは何?」

 

「・・・人間」

 

「じゃあ、道行く人にその謎を出して、

答えられなかった人を食べちゃう怪物は?」

 

「スフィンクス」

 

「さすがね。

 

では、そのスフィンクスと

キマイラとの共通点は?」

 

キマイラというのはあれか。

 

ライオンの頭と山羊の身体を持つ

怪物のはずだ。

 

キマイラ

(キマイラ)

 

片やライオンの胴体、

片やライオンの頭部を持っている。

 

それが共通点だろうか。

 

「じゃあ、

それらとスキュラの共通点は?」

 

スキュラ?

 

とっさに姿が浮かばなかったが、

なんとか記憶を掘り返すと、

 

どうやら、

 

上半身が女で下半身が犬という、

怪物だったような気がする。

 

スキュラ

(スキュラ)

 

スフィンクス、キマイラ、

スキュラの共通点。

 

なんだろう。

 

少し考える。

 

「・・・身体が、2種類以上の生物で

構成された化け物」

 

「なるほど。じゃあ、

そこにケルベロスを加えると?」

 

ケルベロスは首が3つある、

地獄の門番だ。

 

ケルベロス

(ケルベロス)

 

2種類以上の生物がくっ付いては

いなかった気がする。

 

「分からない?

じゃあヒュドラも加えてみて」

 

ヒュドラはヤマタノオロチみたいな

やつだったはずだ。

 

ヒュドラ

(ヒュドラ)

 

ケルベロスのように首が複数ある。

 

でもスフィンクスやキマイラは、

首が複数ではない。

 

スキュラは下半身の犬が

何匹かに分かれていたようだが。

 

「分からないのね。

じゃあこれが最後。

 

オルトロスも加えて、

すべての共通点を探してみてね」

 

チャイムが鳴った。

 

その音と同時に京子はスカートを翻し、

手の平を振りながら立ち去ろうとした。

 

「待て。なにを知っている?」

 

掴もうとした手を京子は避けなかった。

 

けれど、

その手は空を切る。

 

まただ。

 

何故だか分からないが、

この女には暴力的な力が通じない。

 

私の意識下に『それをしては負けだ』という、

強迫観念が働いているのだろうか。

 

「クソッ」

 

苛立つ私を冷ややかな目で見つめ、

 

京子は軽く会釈をしてから

非常口を出て行った。

 

怪物たちの共通点だと?

 

次から次に宿題が増えていく。

 

がんっ

 

ドアを蹴る音が、

思ったより大きく響いた。

 

(続く)怪物 「承」 4/4

スポンサーリンク

コメントを残す


↓↓気が向けば応援していってください(*´∀人)♪
にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ (ブログランキングに参加しています)
サブコンテンツ

月別の投稿表示

カレンダー

2017年10月
« 9月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  
特定のキーワードからサイト内の記事を検索するには、すぐ下の「検索窓」からキーワードを直接入力してご利用ください。
アクセスランキング

このページの先頭へ