人形 1/5

人形

 

人形にまつわる話をしよう。

 

大学2回生の春だった。

 

当時出入りしていた地元の

オカルト系フォーラムの常連に、

 

みかっちさんという女性がいた。

 

楽しいというか騒がしい人で、

 

オフ会ではいつも中心になって

はしゃいでいたのであるが、

 

その彼女がある時こう言うのである。

 

「今さ、

友だちとグループ展やってるんだけど、

 

見に来ない?」

 

大学の先輩でもある彼女は、

 

(キャンパスで会ったことは

ほとんどないが)

 

美術コースだということで

絵を描くのは知っていたが、

 

まだ作品を見せてもらったことはない。

 

「いいですねえ」

 

と言いながら、

ふと周囲のざわめきが気になった。

 

居酒屋オフ会の真っ只中に、

どうして俺だけを誘ってきたのか。

 

確かによくオフでも会うが、

それほど彼女自身と親しいわけでもない。

 

フォーラムの常連グループの末席に

加えてもらっているので、

 

自然に会う機会が増えるという程度だ。

 

なにか裏があるに違いない、

と嗅ぎつける。

 

追求すると、

あっさりゲロった。

 

「gekoちゃんの彼氏を連れてきて」

 

と言うのだ。

 

gekoちゃんとは、

 

その常連グループの中でも

大ボス的存在であり、

 

その異様な勘の良さで

一目置かれている女性だった。

 

その彼氏というのは、

俺のオカルト道の師匠でもある変人で、

 

そのフォーラムには『レベルが違う』

とばかりに鼻で笑うのみで、

 

参加をしたことはなかった。

 

もっとも彼は、

パソコンなど持っていなかったのであるが。

 

その師匠を連れて来てとは、

一体どういう魂胆なのか。

 

「いやあ、そのグループ展さあ、

 

5日間の契約で場所借りてて、

今日で3日目だったんだけど・・・

 

なんか変なんだよね」

 

聞くところによると、

絵画作品を並べているギャラリーで、

 

誰もいないはずの場所から

誰かのうめき声が聞こえたり、

 

見物客の気分が急に悪くなったり

するのだそうだ。

 

「昨日なんてさ、

終わって片付けして掃除してたらさ、

 

床に長くて黒い髪の毛が

やたら落ちてんの。

 

お客さんっていっても、

わたしの友だちとかばっかだし、

 

大抵みんな髪染めてんのよ。

 

先生とかオッサン連中は、

そんな髪長くないしね。

 

気味悪くてさあ」

 

みかっちさんは演技過剰な怖がり方で、

肩を抱えてみせた。

 

「こういう時、頼りになるgekoちゃん。

この間からなんか実家に帰ってていないし。

 

キョースケは東京に出て行っちゃったし」

 

肘をついてブツブツと言う。

 

「というワケで、

 

噂のgekoちゃんの彼氏しか

いないワケよ」

 

みかっちさんは師匠と直接

会ったことはないようだが、

 

やはり噂は漏れ聞いているみたいだ。

 

どんな噂かはさだかではないが。

 

「とにかくコレ、案内状。

明日来てよね。

 

私、明日は朝から昼まで当番だから、

昼前に来て」

 

ずいぶん強引だ。

 

「明日は平日なんですけど」

 

と言うと、

 

「滅多に講義出ないんでしょ」

 

と小突かれた。

 

翌日、一応師匠を誘うと、

 

「面白そうだ」

 

とノコノコついて来た。

 

二人で案内状を見ながら街を歩き

たどり着いた先は、

 

老舗デパートのそばにある半地下の、

こじんまりとしたギャラリーだった。

 

少し外に出ればアーケード街があり、

平日の昼でも人通りが絶えないのであるが、

 

ここはやけに静かで、

落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 

中に入ると、

学生らしきショートボブの女性が、

 

「いらっしゃいませ」

 

と笑顔をこちらに向けてくれた。

 

みかっちさんと同じ

美術コースの人だろうか。

 

暗めの照明に、

 

壁中に大小様々な絵が飾られた店内が

照らし出されている。

 

「あ、ホントに来たんだ」

 

呼んでおいてホントもなにもないと思うが、

みかっちさんがギャラリーの奥から出てきた。

 

そして師匠を見るなり、

目を見開いて呟く。

 

「ちょっと、gekoちゃん。

見せないワケだわ・・・」

 

師匠はそれを無視して、

視線をギャラリー内に走らせる。

 

ここに来るまで冷やかし気味だった雰囲気が、

少し変化していた。

 

「ここって何人ぐらいで借りてるの」

 

師匠の問いかけに、

みかっちさんは「6人」と答える。

 

「コースの仲間と、後輩。

学割が効くんですよ、ココ」

 

「で、自分たちで描いた絵を期間中、

置いてもらうわけか」

 

「そうです。

 

で、6人で順番に当番決めて、

お客様対応」

 

「ふうん」

 

師匠はもう一度、

視線を一回りさせる。

 

「あ、そうそう。

 

わたし犯人っぽいの

わかっちゃったかも。

 

こっちこっち」

 

みかっちさんは俺たちを、

ギャラリーの奥まった一角に案内した。

 

それまでバスケットのフルーツなど

静物画を中心に並んでいたのに、

 

一つ明らかに異質な絵が出現した。

 

それは人形の絵だった。

 

全体的に青く暗い背景の中、

 

オカッパ頭の人形の絵が、

まるでヒトの肖像画のように描かれている。

 

明らかに人間をデフォルメしたものではなく、

写実的な表現で、

 

一目見て人形とわかるように出来ている。

 

黒髪の頭に赤い着物。

 

それらが妙に煤けた感じで、

小さな額に納まっていた。

 

「ね」

 

と、みかっちさんは小さな声で言った。

 

確かに不気味な絵だ。

 

市松人形というのだろうか。

 

可愛らしい人形を描いた絵とは、

少し言い難い。

 

何故かは自分でもよくわからないが、

 

人間ではないものが人間を擬して

そこにいるような嫌悪感があった。

 

「これは誰の絵?」

 

「わたし」

 

みかっちさんは後ろ頭を、

わざとらしく掻く。

 

困ったような表情も浮かべている。

 

「モデルがあるね」

 

「・・・友だちの持ってる人形。

すっごく古いの。

 

ちょっと興味があって、

描かせてもらったんだけど」

 

伏目がちな童女のふっくらした顔が、

不気味な翳(かげ)を帯びている。

 

胸元を締める浅葱色の帯が

所々剥げてしまって、

 

どこか哀れな風情だった。

 

師匠は真剣な表情で絵に顔を近づけ、

何事かぶつぶつ言っている。

 

「やっぱこれかなあ。どうしよう。

結構気に入ってるんだけど」

 

「なにか曰くがある人形なんですか」

 

「あるよ。すっごいの。

 

でもこれは、

 

たかが、わたしが描いた絵だし、

全然気にしてなかったんだよね」

 

「その曰くって、どんなのですか」

 

俺がそう口にしたところで

師匠が顔を離し、

 

難しい顔で「逆だ」と呟いた。

 

「え?」と訊くと、

 

絵から目を逸らさないまま

「いや」と言い淀み、

 

首を振ってから、

 

「やっぱり、よくわからないな。

 

これが原因だとしても、

ただの媒体に過ぎない。

 

本体の方を見たいな」

 

と言う。

 

みかっちさんは「う~ん」と言ったあと、

ニッと唇の端をあげた。

 

「込み入った話だと、

ここじゃちょっとね。

 

近くの喫茶店で話さない?」

 

師匠と俺は頷く。

 

みかっちさん、

 

最初は敬語気味だったのに、

いつの間にか師匠にもタメ口だ。

 

「あ、でも交替要員が来るまで

まだ結構時間あるから、

 

絵でも見てて」

 

来た時は俺たちしか居なかったのに、

いつの間にかもう一人、

 

初老の男性がやって来て、

ショートボブの女性が応対している。

 

俺はギャラリーの真ん中に立って、

目を閉じてみた。

 

精神を集中し、

違和感を探る。

 

するとやはり、

 

人形の絵がある方向に、

なにか嫌な感じがする。

 

照明が当たり難いせいなのかも知れないが、

あの辺は妙に暗い気がする。

 

「ねえミカ、友だち?

なに熱心に見てたの」

 

ショートボブの女性が声をかける。

 

「うん。人形の絵をちょっとね」

 

「人形の絵?」

 

首を傾げる女性に、

みかっちさんはなんでもないと手を振った。

 

(続く)人形 2/5

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