模倣 3/3
ただ一つ違和感があったのは、
ちゃんとみえる『アレ』の気配が、
変に弱いというか薄いこと。
気配の質は同じだから、
Bの中に引っ込むと気配が弱まるのか、
と解釈してスルーしたのだが、
仕事電話で石碑を離れてからも、
やはり気になる。
何だろう。
あの、みえるのに弱いってか、
薄いってかペラいってか、
と考え続けてて
ふっと頭に浮かんだ言葉。
H「ハリボテみたいな気配なんだ」
いや、引っ込むと外側が抜け殻っぽく
残るのかも、と考えても違和感が打ち消せない。
形だけ残して中身が引っ込むとか、
何か凄く不自然だ。
すぐにAから返信があり、
『Bのアレじゃない。絶対違う』
と断言。
アレは引っ込むと形がみえなくなる。
その時も、気配は残り香みたいに
Bを包んでいる。
弱くなんかならない、と。
その返事を受け取ったHは、
瞬時に結論に到達したそうです。
アレが偽物で、
背負ってるBが本物ってのは、
絶対に、ない。
・・・有り得ない。
どんなにそっくりでも、
Bごと偽物なんだ、と。
その辺の理屈は、正直、
俺の理解出来ない点もありましたが。
とにかく、
『偽物のアレを背負った普段通りのB』は、
みえるひと視点では有り得ないようです。
さらに、
Hを焦らせAにも驚きだと言われた事実。
それは、石碑に居たモノが、
気配や憑き物を模写したことでした。
二人の言では、他人の声や姿を
真似るモノはわりといる。
そして、人間の姿を模した程度のものは、
本人の気配とか憑依してる霊とかを
写さないので、
幻覚でも化けてても、
みえるひとには疑問の余地なく
解るのだそうです。
なのに今回のモノは、
本人の気配やオーラ(的なもの)どころか、
背後の霊の気配まで含めて
コピーしようとしたわけです。
これは本当に、みるのも聞くのも二人とも
初のケースだそうな。
H「Bさんのアレも特殊レアモノだし、
さすがにコピりきれなかったんだろーけど。
それでも、あの精度だよ?
ふつーの人なら、守護霊まで
完全にコピーできる可能性が高いよ」
A「Hさんが騙されたくらいだもんね・・・何だろ?
ソレ、弱いってのもフリじゃかったんですか?」
Aの質問に、Hが身振り手振り交えて
説明した限りでは、Aの見解も、
A「それは確かに。
取るに足らないレベルですよね」
とのことだった。
そのしょぼい貧相な気配が、
Bを模して何をしたかったのかも謎です。
あの時Hは、
俺が狙われたのかと慌てたそうですが、
冷静に振り返ってみると、
生身の人間一人をどうこう出来る程の
力はなかったようだと。
そして今となっては、
調査も出来ない状態だったりする、
と言うのは、
あの日、Hに全力でぶん殴られたモノに
何があったのか。
あれ以降、その貧相な気配の持ち主は、
居なくなってしまったからです。
後日、石碑を訪れたHと俺とAは、
「居なくなっちゃった・・・」
と苦笑しながら言いました。
Aも同意したし、その頼まれ事は、
どうやらこれで解決ってことになるらしい。
パニックでフルスロットル状態のHに殴られて、
消えたか逃げたかしたんじゃないか、
とはAの言です。
また、Hの突然の暴行に仰天した以外は、
特に体感がなかったと思った俺だが、
後で思い出すと、
ひとつだけ確かに変なことがあった。
石碑の横でB(だと思ってた何か)と、
ひとしきり喋った記憶があるのに、
何を話したか全く思い出せないんだ。
『大学の頃の話をした』と言うような
曖昧な記憶だけ残ってて、
何年生の時のこととか、
どのイベントの話とかが、
全く解らない。
飲み屋で本物のBが喋ってたことは、
俺がうわのそら気味だったにも関わらず、
しっかり覚えてるのに。
HとAに話すと、さらに難しい顔で、
H「ってことは、幻覚系じゃないよな」
A「変身で、Hさん騙すほどそっくり?
うーん・・・」
と、二人して首を傾げていました。
(終)