融合体 2/3
壁向いて立った横顔は、
白目を剥いて天井見上げて、
唇の端が少しだけ上がって
ニヤついてるみたいで、
どっか壊れたような形相で
ブツブツブツブツ何か呟き続けてて、
上手く言えないけど、
その目つきが本気で怖い。
実はコレがウチに出る悪霊ですって
言われたら信じたと思う。
俺もドン引きしたけど、
Aはもう真っ青でした。
A「・・・元はどこに?」
Aが聞くと、Hは少し疲れたような
余裕のない顔で笑って、
H「そこが一番まずいんだよね。
・・・解んないんだよ。
気がついたら拾っちゃってて」
後で二人に聞いたら、
そこんちの息子(Iとします)に憑いてたのは、
何だか複数の人霊が、
怨念を繋ぎにして融合したようなもの
だそうでした。
様子から言って、長いこと生き物でなく
モノに憑いていたと解る状態で、
本体と言うか依りしろと言うか、
それがIに憑く前に居たものがあるはず。
それが、除霊する時に手がかりと言うか
土台になるらしいです。
なのに、どこで取り憑かれたのか解らないために
除霊の手がかりがなく、
霊能者に無理だと言われたそうでした。
Hの答えを聞いたAは、
さらに怯えたような顔をしていました。
A「・・・この人、大丈夫なの?
何かヤっちゃったとかないの?」
H「あー。寸前まで行ったことはある、かな。
今はとりあえず、ちょい前に来てくれた人が
体にヨケ(?)付けて抑えてるから」
そんな感じの怖い会話の途中で、
外から車の音がしました。
CがBを乗せて来たのですが、
案の定と言うか怖いことにと言うか、
Bは車中で既に熟睡していました。
HがCからBを引き取り、
抱えて奥の部屋へ連れ込み、
床に寝かせて毛布を掛けました。
後からIをそこんちの奥さんが連れて来て、
熟睡中のBと虚ろな目のIを残して、
俺らは部屋を出ました。
考えてみりゃ、眠ってる既婚女性と、
おかしな男を一つ部屋に入れたりして、
とんでもない話です。
何故かその時は、
Hの全く躊躇のないテキパキした態度と、
Bは何があっても無事と言う考えが、
当然のこととして頭の中にあったため、
唯々諾々と従ってしまいました。
ドアを閉めるとHがドアに背を付けて、
廊下にあぐらを掻いて座りました。
Aが俺にしがみつき、奥さんが足早に
廊下を戻って引っ込んで少しして・・・
部屋の中から凄まじい破壊音が、
響き渡りました。
壁か柱がぶっ壊されてるんじゃないか
ってくらいの轟音に混ざって、
ガシャン、パリンと、
ガラスか茶碗が割れるような音。
俺はギョッとしましたし、
Hは揺れるドアに背中を押し付けて
座り込んだまま、動きませんでした。
Cも、何かHから聞かされていたのか、
落ち着かない様子ながら、
あまり慌てた様子もなく。
どれだけ時間が経ったのか、
誰も動かずに待ち続けて、ようやく、
中の音が小さくまばらになってきた時。
すぐ内側から誰かが揺すってるように、
ドアがガタガタっと揺れ、
切迫し鋭く焦りまくった男の声が、
聞こえました。
?「おい、助けてくれ!!お願いだ、助けて!
開けてくれ、早く!早く!!
ここを開けてくれえええっ!!」
Aが顔を上げてHに向き直り、
「ねえ、もういいんじゃない?
開けて出してあげようよ」
ここで俺もはっとして、
「おい、さっきの人(I)、
正気に返ったんじゃないか?」
と言葉を添えましたが、
Hはギッと俺たちを睨み付けて、
「まだ」と言いました。
それからさらに時間が過ぎ、
中から全く音がしなくなって、
やっとHは立ち上がりドアを開けました。
中は、HがBを寝かせIを入れて出た時と、
全く変わりありませんでした。
壊れたものも動かされたものもなく、
ただBが部屋の真ん中で大の字になって
寝てるだけ。
あの破壊音を立てたと、
推測出来るものの痕跡一つなく。
そして部屋の隅にうずくまって震えていたIに、
Hが駆け寄りました。
H「おい、I。俺、わかるか」
I「あ・・・H?H!!」
目が焦点を結ぶと、Iは取り乱した様子。
しかし、初対面の時より遥かにまともな様子で、
Hに掴みかかりました。
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