床に落ちてた赤いクレヨン
ある新婚の夫婦が、
結婚記念に中古の家を買った。
中古とはいえ、
周囲の環境や
日当たりは良好な上、
値段も格安であったため、
夫婦はとても満足していた。
そんなある日、
夫が廊下を歩いている時、
床に「赤いクレヨン」が
落ちているのを見つけた。
夫婦に子どもはまだいないため、
夫は不思議に思いながらも、
前の住民の忘れ物であろうと考え、
何気なくゴミ箱にそれを捨てた。
数日後、
夫が新聞を取りに行くため
廊下に出ると、
この前と同じ場所に、
また赤いクレヨンが落ちている。
さすがに不思議に思った夫は、
そのことを妻に話してみた。
すると、
妻は顔を青ざめながら、
「私もこの前、
あなたと全く同じ場所で、
掃除をしていた時に
拾ったの・・・」
と答えた。
さすがに二人共が、
同じ場所でクレヨンを拾った
というのは普通ではない。
子供もいないのになぜ?
夫婦はクレヨンが落ちていた場所の
周辺を調べてみることにした。
すると、
おかしなことに気がついた。
この家を外から見ると、
明らかにもう一部屋
あるはずなのだ。
家の図面を見て確認しても、
心当たりのない部屋が、
一つ記載されている。
しかもその部屋は、
例の「赤いクレヨン」が落ちていた、
廊下の突き当たりにあるようだ。
二人が問題の場所に戻って
壁を叩くと、
明らかにそこだけ周囲と
音が違った。
夫が慎重に壁紙を剥がしてみると、
そこには念入りに打ちつけられた
引き戸が隠されていた。
夫は釘を全て引き抜き、
ゆっくりと引き戸を開けた。
すると、
中にはガランとした
何もない部屋があった。
薄暗い中、
湿度の高い
その部屋の白い壁には、
赤色のクレヨンで
こう殴り書きされていた。
おとうさんおかあさん
ごめんなさいここからだして
おとうさんがおかあさん
ここからだして
ごめんなさいごめんなさい
おとうさんはおかあさん
ここからだして
ごめんなさい
おとうさんおかあさんごめんなさい
ここからだしておとうさんおかあさん
だしてだしてだしてだしてだして
検証
この話は、
タレントの伊集院光が
1997年頃に、
「山田邦子のしあわせにしてよ」内の、
怖い話企画で発表したもの。
完全な創作である。
ラジオ「伊集院光 深夜の馬鹿力」
1998年3月30日放送分において、
伊集院本人が言及。
この話を聞いた視聴者の中に、
自分の体験した恐怖体験として
雑誌投稿などをする者が現れ、
やがて「友達の友達の体験」
といった口コミに、
尾ひれがついて拡大していき、
次第に都市伝説として
定着していった。
噂の流布に伴い、
創作者を知らない人も多くなり、
伊集院自身も、
仕事関係者から都市伝説として
この話を聞かされたことがあった、
と話している。
類話としては、
江戸川乱歩の「お勢登場」
などが知られている。
(終)