真心のサービス

5年ほど前、

伊豆に旅行をした時の話です。

 

当時、子供達が10歳と7歳、

妻は3年前に亡くなってました。

 

その1年前から、親父の跡を継いだ鉄工所が

ちょっとまずくて・・・。

 

しかも子供を二人抱えた片親ですから、

もうバタバタでフラフラの毎日でした。

 

でも、鉄工所が順調に持ち直し始めたので、

休憩の意味で旅行をする事にした訳です。

 

俺は子供達と「お母さんも連れて来て

あげたかったねえ。もう亡くなって3年かあ」

などと話してました。

 

それを仲居さんが、

ちょっと聞いてたんでしょうね。

 

その日の夕飯時、

3皿ほどの料理が乗ったお膳を

一つ余分に持ってきました。

 

俺は「これは何ですか?」と尋ねると、

「これは、陰膳です。

奥様との思い出を御楽しみ下さい」と。

 

俺はこの粋で優しいサービスに、

涙腺がぶわっと崩壊。

 

人前なのに涙を流してしまいました。

 

その日の夜、ニコニコした妻が

夢の中に出てきました。

 

ああ、妻の霊も旅行を楽しんでたんだなあと、

嬉しく思ったところで目が覚めた。

 

俺はまた泣いてました。

普段泣かない男なのにね。

 

泣きっぱなし旅行のでした。 

 

(終)

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