会社に届いた俺への名指しの手紙 1/2

封書の手紙

 

去年の暮れ、会社に一通の手紙が届いた。

 

編集プロダクションに勤めている俺への“名指し”の手紙だった。

 

手紙を読むと、自分のエッセイを読んで添削して欲しい事と、執筆指導をして欲しい事の二点が主な内容だった。

 

奥付(本の最後の出版社や発行者、編集者などの名前が載っている部分)で名前でも見たんだろうかと思いながらも、初めての事態に少々不信感を抱きながら返信した。

 

持ち込んでくれれば読むが、その後も個別に指導を続けるのは無理である旨を伝えた。

 

その翌日、宅配便の担当者から「宛先に該当する人がいない」との電話を受けた。

 

その言い回しに若干の違和感を覚え、詳しく訊いてみると、その宛先は北関東にある刑務所だった。

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奇妙な話になっていった挙句に

同封されていた返信用封筒に記されていた住所をそのまま書いたのだが、意外な展開に戸惑い、差出人の名前で検索すると傷害事件で逮捕された男の名前だった。

 

収容された場所がそこである事はネットで調べた限り確かな様だったが、既に出所している人物だった為、誰かの嫌がらせの線をまず疑った。

 

あらためて封筒を見てみると、二つの事に気が付いた。

 

①、封筒に書かれていた差出人の住所と、返信用封筒に書かれていたそれが違う場所である事。

 

②、封筒と便箋に使われていたペンが別物である事。(筆跡は見た限りでは同一の様)

 

二つ目の意図と意味は上手く推測出来ず、とりあえず誰かにからかわれたような気になり、よせばいいのに封筒の方の住所へ改めて返信をする事にした。

 

正直、怒りの気持ちもあったが、恐怖もあった為、そういう気持ちは表さずに形式通りのビジネスレター的な書き方にした。

 

その四~五日後に返信が届いた。

 

封筒の裏を見ると、前回と同じ住所。

 

あの受刑者と同じ名前で届いた事に少々怯えつつ封を開き、次の文を見て血の気が引いた。

 

『○○○は、もう三年も家に戻っておらず捜索願を出しているのです。もし居場所をご存知なら、お願いですから教えて頂けませんでしょうか』

 

ネットで見た限りでは、言い渡された刑期と確定判決の出た時期から考えて、出所は去年の夏辺りのはずだった。

 

特赦や恩赦や仮釈があったにしても三年前は早すぎる。

 

※特赦(とくしゃ)

恩赦の一種。特定の者に対して行われる刑の免除。

 

※恩赦(おんしゃ)

裁判できまった刑罰を、特別な恩典によって許し、または軽くすること。

 

三年間服役していて家に居ないのであれば、それを捜索願出す訳も無いし、もし仮に親が知らないうちに息子が服役してたにしても、その捜索願を受けた警察側で彼の現状は分かるはずだと思った。

 

同姓同名の別人なのか?

 

それとも他の理由があるのか?

 

ここで終わらせたい気持ちと真相を知りたい気持ちに揺れて、俺は手紙に書かれていた電話番号に電話を掛けてみる事にした。

 

固定電話で市外局番を見る限り、送り元の住所と一致していたし、恐らく母親だと思われる書き手の文は嘘には思えなかった。

 

聞きたい事は主に三つ。

 

①、息子さんは過去に傷害事件(実際は併合罪であったが詳細は省く)で服役していたのか?

 

②、もしそうなら出所はいつだったか?また三年より前の足跡は把握しているのか?

 

③、彼は文筆活動を志している人間だったのか?

 

いきなり不躾(ぶしつけ)な質問揃いだったが、こっちも片足を突っ込んでいるので知りたい気持ちが強かった。

 

予想通り年配の女性の声が聞こえ、そして質問をぶつけてみたが・・・。

 

「○○○は大人しい子で、そんな暴力沙汰なんて考えられません・・・。三年前と言いましたが、居なくなったのに気づいたのが三年前なんです」

 

「ずっと家に篭りっきりの○○○が、部屋の前に運んだ食事に手を付けなくなり、そういうことは・・・時々はあったのですが・・・それが続いて思い切って部屋を覗いてみたら居なくなっていて・・・」

 

「学生時代の連絡網、全員に電話してみたんですけど、誰も知らないって・・・。頭の良い子ですから作文は好きでしたし成績も良かったので小説は・・・部屋の中を見なかったので分かりませんが・・・」

 

「居なくなって・・・やっと○○○のお友達から手紙が着たと思ってお返事しましたのに、暴力事件だなんて酷すぎます!」

 

もちろん、こちらの経緯と「お聞きし難い事ですが止むを得ず」と言う旨は伝えたのだが、徐々に声が上ずってきていた。

 

非礼を詫び、「私も真相が知りたいのです」と食い下がり、手紙が本人の物であるかどうか見てもらう話を取り付けた。

 

その住所は都内だった為、その週の土曜日に俺はすぐにそこを訪れた。

 

声のヒステリックさとはイメージの違う、意外と普通の四十後半ぐらいの女性がドアを開けてくれた。

 

(続く)会社に届いた俺への名指しの手紙 2/2

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