聞き慣れた音だからこそ戦慄した

山小屋

 

これは、私の体験した話。

 

学生時代に仲間と三人で、冬の山小屋に泊まった時のことだ。

 

日没前から雪が降り始め、晩飯を終える頃には小屋は雪に閉ざされていた。

 

雪明かりで外がぼんやりと見渡せる。

 

静寂が耳に痛い。

 

コーヒーを湧かしながら明日のルートの話をしていると、突然音が響いた。

 

「キィィィィ」。

 

立て付けの悪い戸が開く音だ。

 

聞き慣れた音。

 

だからこそ戦慄した。

 

この小さな小屋に戸板と呼べる代物は二つだけ。

 

どちらも目の届く範囲にあって、しっかりと閉じているのが確認できる。

 

小屋中を探索してみたが、他に扉はどこにも見つけられない。

 

空耳かと考えていると、再び戸が開く音がした。

 

しかも、今回は続いて“誰かが歩くような音”までが聞こえてきた。

 

どうにも落ち着かず、交代で見張りを立てて眠りにつくことにした。

 

結局、その後も何度か何処かの扉が開き、誰かが歩く足音が聞こえていた。

 

やっぱり落ち着かず、その夜はろくに眠れなかった。

 

(終)

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