まさか小人が盗んだんじゃないでしょうね
これは、無くし物にまつわる不可解な体験をした話です。
私はいつも指輪をしているのですが、その時は手が荒れていたのでハンドクリームを塗るために、一度指輪を外してテーブルの上に置きました。
そしてクリームを塗り終わり、さぁ指輪をつけようとテーブルを見ると、指輪が無くなっていたのです。
ほんの2~3分の間に。
間違いなく、テーブルの上に置いたのに。
私は一生懸命に探しました。
それに、部屋はとても物が少ないのでどこかにあったらすぐに気付くはずなのに、結局は見つかりませんでした。
がっくりして諦めた時、ふと昔に読んだ絵本を思い出したのです。
それは、『ある家の床下に小人が住んでいて、住人の持ち物をこっそり盗んでいく』というお話だったと思います。
それを思い出した私は、まさか小人が盗んだんじゃないでしょうね・・・なんて思い、冗談で「ふざけんな! 私の指輪を返せ!」と、一人きりの部屋で怒鳴りました。
すると、背後から「チリン・・・」という音が。
振り向くと、2メートルほど後ろにある襖の前に指輪が落ちていました。
いくらなんでもあんな所に置くはずがなく、また探している時に気付かずに蹴っ飛ばしたにしては、襖に当たってチリンという音が聞こえるまでの時間差はありえません。
その時は妙なこともあるもんだ・・・と思うだけで終わったのですが、これ以降は一瞬目を離した隙に持ち物がなくなるということが度々起こるようになりました。
ただやはり、怒鳴ったり大声を出すといつの間にか離れた床に落ちている、のです。
このことを弟に話したところ、大爆笑されました。
ですが、しばらくしたある日、二人で夕食を食べていた時に突然弟が「姉ちゃんの言った通りだった・・・」と。
私は「何が?」と聞き返すと、弟はこう言いました。
「さっき部屋で美術の作品の仕上げしてたんだけど、さっきまで使ってた青の絵の具が箱に入ってなくて。探したけど見つからないから姉ちゃんが言ってたこと思い出して、『盗んだ奴がいたら許さねぇ!』って言ったら、タンスの前に誰かが転がしたみたいにコロコロって転がってた」
私は返答できず、無言で固まりました。
まさか家に小人がいるとは思っていませんが・・・。
ただ単に私たち姉弟がうっかり者なだけかもしれません。
(終)