自分の死期をよく口にしていた母

線香

 

これは、私の母の話。

 

私のおばあちゃんは58歳の時に癌で亡くなったそうだ。

 

当時はまだ私は生まれていなかったので詳しくは知らない。

 

その後、私が生まれて成長していく中で、母はよく「私は58までしか生きれないから」と、何かあるとポロッと言っていた。

 

何と言えばいいのか、”運命には逆らえない”と諦めたような表情で。

 

病気があるわけでもないし、その度に「縁起でもないからやめて!」と私は言っていた。

 

ちなみに、他の兄弟はその発言を聞いたことがなかったそうだ。

 

そして母は58歳になる前に脳出血で倒れた。

 

意識障害があり、四肢の麻痺が残り、喋ることも出来なくなった。

 

私はなんとなく、母の予言が外れたとホッとしていた。

 

しかし、母が58歳になったある日、病院から呼ばれ行くと、寝たきりの母に悪性の腫瘍が出来ていると言われた。

 

この時、初めて『言霊』というものがあるんだと背筋が凍った。

 

やっぱり不吉なことは口にするもんじゃない、と。

 

あとがき

現在、母は58歳を過ぎても生きている。

 

正しくは”生かされている”、と言った方が合っているかもしれない。

 

なぜなら、もし呼吸器を外して栄養を止めたらすぐに死んでしまう状態だから。

 

例えは悪いが、生ける屍かな。

 

(終)

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