戦場じゃ不思議なことが起こるんじゃ
これは、中国で捕虜になっていたじいちゃんの話。
通化事件の後、じいちゃんを含む日本人の捕虜は、“日本人の遺体を穴を掘って埋める作業”をさせられていた。
※通貨事件(つうかじけん)
1946年2月3日に中国共産党に占領されたかつての満州国通化省通化市で・・・(中略)・・・日本人らに対する虐殺事件。(Wikipediaより)
朝から夜まで作業は続き、休んだり気を抜いたりすれば、監視役の中国兵から暴行を受けるのは当たり前だった。
じいちゃんの班の監視役の中国兵は、日本兵から奪い取った軍刀を持って見回りをしていた為、いつ切られるかと怯えながら、異臭が漂う中を黙々と作業をこなすしかなかった。
ある晩、じいちゃんの班の仲間が過労に耐えかねて立ったまま寝てしまった。
それを見つけた監視役の中国兵は、じいちゃんの班を整列させ、散々罵った後に「全員切る!」と言って刀を抜いた。
もう終わった・・・と思い、観念して目を瞑ったが、誰の断末魔も聞こえない。
何故かと思って顔を上げると、監視役の中国兵が刀を抜いたまま固まっていた。
不思議に思って眺めていると、中国兵は刀を落として官舎へ戻って行ってしまった。
良かった助かったと班の仲間と喜んでいると、他の班の日本人たちが駆け寄って来て、「お前たちの掘っていた後ろの墓穴から鬼火が出とった」と口々に言われた。
※鬼火(おにび)
夜間、墓地や沼地などで、青白く燃え上がる不気味な火。人骨などのリンが自然発火したもの。人魂。火の玉。(Weblio辞書より)
じいちゃんは、「戦場じゃ不思議なことが起こるんじゃ」と笑って話していた。
(終)