バスが近づくにつれ襲う違和感
これは、アメリカにいる友人から聞いた不気味な体験話。
アメリカでは、子供の通学にはスクールバスが利用されているのだそうだ。
この話をしてくれた彼の家は山中の農場で、バスストップは近場にあるものの、そこから乗降している子供は彼を含めて僅かだったという。
その日の朝、バスを待っているのは彼一人だけだった。
他の子らは体調でも崩したのだろうか、誰も来ない。
落ち着かない気持ちで待っていると、道向こうからバスが来るのが見えた。
しかし、バスが近づいてくるにつれ、違和感が彼を襲う。
この路線のバスは最近新調されていて、それが気に入っていた。
だが、今こちらに向かって来るバスは、どう見てもボロボロに錆びている。
…というより、どう見てもスクラップ寸前の廃棄バスにしか見えない。
明らかに、いつも利用しているバスではなかった。
やがてバスは彼の目の前で停車し、扉が開いた。
その瞬間、車の中から何かが腐ったような嫌な匂いが漂ってくる。
黒ずんだ座席には、子供は一人として乗っていない。
どうしようもなく不安になり、乗り込まずに運転席の方へ回ってみた。
運転席は無人だった。
悲鳴を押し殺し、後退りしながらゆっくりとバスから離れた。
やがてドアが閉まり、バスは遠くへ去って行ったという。
それからすぐに、いつものスクールバスがやって来たそうだ。
彼は自分の見たバスのことを大人に話したが、誰も真面目に取り合ってはくれなかった。
「しばらくの間、一人でバスを待つのが苦痛になったよ…」と、大人になった彼は苦笑しながらそう言っていた。
(終)