礫ヶ沢の「つぶておに」の話 2/2

川原

 

夏休みも終わり、

大学が始まって秋口の頃、

 

気が付くと、

Aを学校で見なくなったんだ。

 

おかしいなあ、と思って

BやCとも話していたんだけど、

 

その時にBが思い出したように

こう言ったんだ。

 

「そう言えばAのヤツ、

 

先々週あたり、お前の実家に

行くって言ってたぞ」

 

「・・・なんで?」

 

「なんでも、

 

オカルト研の連中に例の礫の話

をしたら盛り上がったんだって」

 

それを聞いた俺は、

イヤな予感に包まれたんだ。

 

オカルト研の連中に

話を聞いてみようと思ったんだが、

 

奴らの活動場所が分からない。

 

すると、

Cもイヤなことを言い出すんだ。

 

「そう言えば、

 

俺の知り合いにオカ研がいるんだけど、

そいつも最近見ないな・・・」

 

益々、イヤな予感が強くなる俺。

 

正直、関わり合いになりたく

なかったんだけど、

 

このままってのも気分が悪いので、

とにかくAの家に行ってみよう・・・

 

そういうことになったんだ。

 

Aのアパートに行く途中、

 

近くのコンビニに寄ったら

偶然Aとバッタリ会った。

 

始め、何かやたら挙動不審な

奴がいるなと思ったら、

 

それは酷く怯えたAだったんだ。

 

俺たちがAに声をかけると、

Aは凄い怯えた表情で逃げようとした。

 

・・・が、俺の顔を見た途端、

Aは凄い勢いで捲くし立てたんだ。

 

いや、正直もう何を言っているかも

分からなかったんだけど。

 

とにかく凄い怯えようで、

俺たちはAのアパートに連れ込まれた。

 

Aの話を要約するとこんな感じ。

 

あの後、礫ヶ沢でつぶておにを

オカルト研でやりに行った。

 

実際に鬼の礫を見つけて

つぶておにをやってみると、

 

不思議なことに、

確かに石なのに痛くない。

 

その後、「鬼の礫~」をやらずに

石を持って帰って調べてみよう、

 

そういうことになって、

石を持ち帰った。

 

ところがその帰り、

 

夜の国道を走っている時に

異変が始まった。

 

礫ヶ沢に行ったオカルト研は、

 

AとD(Cの知人)と、

E(教育学部の地学研究室)の3人。

 

石を持ち帰ったのはE。

 

普段はやたらおしゃべりなのに、

帰りの道中では殆ど口をきかない。

 

「まあ、疲れているんだろうな」

 

くらいに思っていた。

 

3人が帰りにコンビニへ寄り、

飲み物なんかを補充していると、

 

Eが飲み物の他に

カッターなんかを買っている。

 

その時は「おかしなヤツだな」、

程度にしか思わなかったんだ。

 

コンビニを出る時、

 

Eの影に角が生えているように

Aには見えた。

 

ギョッとして見直すと、

 

コンビニのガラスの影の具合で

そう見えただけのようだ。

 

「つぶておにの話を聞いた後で、

神経質になっているんだ」

 

そう思い直して車に向かった時、

車からDの悲鳴が聞こえた。

 

それは、EがカッターでDに

斬りつけたところだった。

 

Aは後ろからEを羽交い締めにして

どうしたんだ!と叫ぶと、

 

Eの首がぐるっと回り(そう見えたらしい)

獣のような目でイヤな笑いをしたそうだ。

 

次の瞬間、

 

Aは太ももをEのカッターで

斬りつけられて、

 

その痛みでEを放してしまったそうだ。

 

Dはその間に車へ乗り込み、

ドアも閉めずにそのまま車で逃走。

 

Eは開きかけのドアに捕まり、

車に引きずられて行ってしまったそうだ。

 

一人残されたAは恐怖に震えながら、

タクシーで家に帰ったそうだ。

 

後日、

Aは大学で連中のことを聞く。

 

その日、

Dの車は近くの陸橋で自爆事故。

 

Dはその時の怪我で入院中。

 

Eはその日以来、

姿を見せていないとのこと。

 

Aはその話を聞いて、

 

「次にEが来るのは

自分のところじゃないか・・・」

 

そう思って、

アパートに閉じこもっていた。

 

事の顛末を聞いた俺は、

 

実家に電話をかけて

村の寺の名前を聞き、

 

寺の住職に電話をかけようとした。

 

その間、

 

Aはベッドの上で毛布に包まって

震えていたのだが、

 

突然悲鳴を上げた。

 

窓の外を見ると、

 

むちゃくちゃ汚れた男が、

ベランダから部屋の中を覗いていたんだ。

 

目つきが尋常でなく、

イヤな笑い顔でブツブツ言っている。

 

その常軌を逸した姿を見た時、

俺の背筋は冷たくなった。

 

男は手にした石でガラスを割ると、

ゆっくりと部屋の中に入って来た。

 

俺たちは暫し呆然としていたが、

そこは男3人。

 

カッターを振り回す男相手に、

椅子や鍋などで立ち回り。

 

何とかその男を取り押さえた時に、

ドアの外から警官の声がしたんだ。

 

「こんな怪しい風体の男が

ベランダをよじ登ったりしていれば、

 

そりゃ通報もされるわな」

 

なぜか冷静に考えていた俺の脇では、

Aが失神してしまっていた。

 

俺たちが捕まえた男は案の定Eで、

 

心神喪失状態でどうなるかは

分からないとのこと。

 

Aは実家へ帰って、

その後のことは知らない。

 

寺の住職に電話をしたら、

俺がこっぴどく叱られる羽目になった。

 

後は任せてもう関わるな、

と釘をさされた俺は、

 

正直あんな大立ち回りを

演じるのは嫌なので、

 

住職の言葉通り、事件に関しては

もう触れないようにしている。

 

たまにBとCとで飲む時に、

少し話すくらいだ。

 

ただ、

 

ひとつだけ気になっている

ことがあって・・・。

 

あの鬼の礫、

その行方がどうなったか。

 

Eを取り押さえたあの時、

部屋に鬼の礫が転がったはずだが、

 

警官がやって来た時には

石の姿は見えなかった。

 

いや、警察が押収していれば、

住職が何とかしているだろうけど。

 

もし誰かが持っているのなら・・・

今でもそう考えると背筋が寒くなる。

 

礫ヶ沢の鬼の礫には気をつけて。

 

(終)

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