祈りの滝で声をかけてきた不気味な女性
これは未だ謎のままで、思い出すとゾッとする体験談です。
かれこれ10年以上も前の出来事なので、かなりうろ覚えな部分もありますがそこはご了承下さい。
場所は大阪の南部と奈良とを結ぶ、水越峠という古い峠道の途中にある『祈りの滝』にて。
「にいちゃん、知ってる?」
その日、当時付き合っていた彼女を単車のリアシートに乗せて、大阪から奈良方面に向かっていました。
そして、その途中にある祈りの滝に立ち寄りました。
そこは、ちょっとしたパーキングスペースのようになっていました。
地元の農家の人が野菜などを売っていたり、湧き水が有名だったりで、その時も休憩がてらの人達が数人いました。
彼女がリアシートから降りて私が一人で単車を停めていると、古い白色のセダンが入ってきました。
そのセダンから夫婦と子供二人、ごく普通の家族が降りてきました。
でもよく見てみると、なんだかこの家族が変でした。
もの凄い違和感を感じたのです。
陰気臭いというか、覇気がないというか、今にして思えばですが・・・。
すると、その家族の母親と思しき女性が私の方へ近づいて来ました。
近づいて来るにしたがって、その陰気臭さが不気味に思えてきて、私は少し強張りました。
そして女性が私の目の前まで来た時、さらに気味の悪いことに陰気臭いまま「ニマッ」とにやつきながら話しかけてきました。(なんで俺なの?と思いましたが・・・)
「にいちゃん、知ってる?あそこに祠があるやろ?」
女性はニタニタ笑いながら指差しました。
確かにその指差した先には古い小さな祠がありました。
今度はその祠へスタスタと近づいていき、私に手招きをしながら「ほら、こっちこっち」と、なにやら祠の本体と台座の隙間を覗き込んでいます。
え?と思って私も思わず近づき、その隙間を覗き込みました。
するとそこには、いくつもの小さな巾着袋のようなものが置いてありました。
何これ?という感じでその女性を見ると、さらにニンマリと笑いながら「これ、みんな人間の喉仏やで」と言うのです。
そのニタニタと笑う顔が一層薄気味悪くて、私は「ヒャァ!」と声が出そうでした。
気味悪いのを押し殺しながら、「へぇ、そうなんですか・・・」と返事をするしかなく、何も聞かないままその場から退散してしまいました。
あの女性は一体何者だったんだろう?
通りがかりの見知らぬ私に、それも嬉しそうに突然あれを見せるって、どういうことだったんだろう?
全てが謎のままです。
(終)