ある神職一族の本家と分家の事件 1/3
近所に、家族ぐるみで
懇意にしてもらってる、
神職の一家がある。
その一家は、
ある神社の神職一家の
分家にあたり、
本家とは別の神社を
代々受け継いでいる。
ウチの住んでいる辺りでは、
かなりの歴史がある
旧家の分家だが、
そこの神職一家が
非常に気さくで、
人当たりの良い人達ばかり
ということもあって、
その神職一家と非常に仲良く
させてもらっている。
そこの次男Aさん(30半ば)
に聞いた話。
尚、よく分からなかった
言葉などは、
後に調べて補足している。
最近、新車を買って、
そこの神社で交通安全祈願を
してもらった時のこと。
その後に、
社務所で事務仕事をしていた
Aさんに声をかけ、
世間話をしていた。
俺「Aさんって今は事務方メインの
仕事されてますけど、
昔は祭事とかお祓いとか
されてたんでしょ?
物凄い悪霊を祓ったことが
あるみたいな感じの、
怖い話とかってないですか?」
A「確かにお祓いもしてたけど、
まず何かに憑かれてる人が
来ること自体がないからね」
俺「どういうことです?」
A「普通は今日の君みたいに、
悪いことが起きませんように
って厄除けに来るんだよ。
何かに憑かれてるようだから
祓って欲しい、
と言って来る人自体が
すごく稀だし、
しかも、
そう言ってる人も、
大体が思い込みの場合が
多いからね。
知っている限りでは、
そういう人が来たことは
一度も無いよ。
本家には極稀に来るらしいけど」
俺「思い込みですか・・・
じゃあ、怖い話ってそうそう
あるわけじゃないんですね」
A「お祓いじゃないけど、
ホントに怖い体験をしたのは
1回だけだね」
俺「え?あるんですか?
どんな幽霊だったんです?」
A「いやいや、
いわゆる幽霊なんぞだったら
大して怖くないよ。
天神様や大魔縁とも呼ばれた
崇徳天皇首塚で有名な、
将門公みたいに神格化まで
されてるような例外はあるけど」
俺「それじゃあ、一体何が
相手だったんですか?」
A「ここではちょっとあれだから、
場所を変えようか」
そう言ってAさんは、
神社の境内から少し外れた
山際のベンチまで、
俺を連れてきた。
A「これは社務所でペラペラ話すのには
ちょっと抵抗がある話でね」
そう言ってAさんは、
その時の事を話してくれた。
Aさんが20代だった
10年以上前、
まだ神職の資格を取った
ばかりの頃の話。
その頃のAさんは、
今みたいに穏やかでなく、
本家の人達をあまりよく
思っていなかったらしい。
俺の住んでいる辺りは
田舎だから、
本家と分家の間に
封建時代の主従のような
絶対的な力関係が
あるのかと思いきや
そうではなく、
本家と分家の当主同士が
気軽に飲みに行く、
なんていう、
普通に仲の良い
親戚関係だそうだ。
(旧家にありがちな政治権力とも
距離を置いている一族なので、
金や権力についての揉め事が無いのも
一因だろうとはAさんの談)
本家の持つ特権は、
あくまでも本家が祀る神社の
祭祀に限られているとの事。
じゃあ、
なんでその頃のAさんは、
本家の人達をよく思って
いなかったのか?
分家というだけで、
根拠の無い劣等感があり、
若さゆえに反発せずには
いられなかったこともあるが、
Aさんたち分家の人達と、
その本家の人達の間にある
差が原因にあったという。
Aさんたち分家も本家も、
長い歴史を持つ神職の一族で、
(本家に至っては、
記録にある部分だけでも
1300年以上続いている家系。
某国風土記の平安期写本にも、
本家に関連する記載があるらしい)
余所から嫁または婿に
来た人以外は全員、
昔からの巫覡(ふげき)の体質を
受け継いでおり、
成り行きこの世のものならざるものが
視えるそうだ。
※巫覡(wikipedia)
そこで、分家と本家の差の話が
出てくるのだが、
本家の人達は、
本家が祀る神社の神様からの
加護を受けており、
当主と次期当主に至っては、
特に強力に護られているらしく、
身の周りに霊とかその他の
良くないモノが全く近づけないため、
目にしなくなる程だそうだ。
それ故、
子供の頃からそういうものを
時々目にしており、
苦労して対処を身につけた
Aさんからすれば、
生まれた家が本家というだけで、
無条件に守られていることに
納得がいかなかったらしい。
本家の本家たる所以は、
本家が祀る神様との関係にある。
本家はある神社(X神社とする)
を管理しており、
分家も神社(Y神社とする)を
管理する立場にあるが、
X神社とY神社とは別に、
もう一つの神社(Z神社とする)
が存在する。
Z神社は過去に一度失われ、
大正期に再建されたという
歴史があり、
そのZ神社こそが、
本家が代々祀ってきた神社で、
その祭祀を取り仕切る事こそが
本家の役割。
そんな時、
本家の当主と次代当主だけで
代々行ってきた
当主継承に関わる祭祀を、
10歳になる長女が失敗する
という事件が起こった。
知識の無さが浮き彫りに
崇徳上皇様は…