魔漏という邪悪な御守の話 1/3

神社

 

昨年の大晦日、

 

(Y)は夫のRと妹のA美と三人で、

北関東にあるRの実家に出かけた。

 

夫の実家は近県では有数の

古い歴史を誇る、

 

H神社を擁する山間の町だ。

 

私達はH神社に参拝しながら

年を越そうと思った。

 

ところが、

山道に入ると渋滞が酷く、

 

とても0時前にH神社には

到着できそうにない。

 

このあと1時頃に夫の実家へ

着く予定だったので、

 

0時半迄には神社を出たい。

 

車中で話した結果、

 

その夜はH神社への参拝を諦め、

元旦過ぎに出直すことに決めた。

 

車を回して山を降りようと

脇道へ入った時、夫が、

 

「そういえば、

この先にも神社があるよ」

 

と言い、

そこで年を越そうと提案した。

 

H神社の流れを汲み、

 

火産霊神(ホムスビノカミ)を祀る

その神社(G神社)は、

 

地元では知られており、

 

住人の間では、

そこで年を越し、

 

大混雑するH神社には、

 

年明けにゆっくり参拝するのが

慣例だそうだ。

 

H神社へ行けずに愚痴をこぼしていた

妹のA美は、

 

その提案に飛びついた。

 

私達は、あぜ道に車を止めて、

G神社へ向った。

 

中規模な神社の割には、

 

参道に地元の人が

長い行列を作っていた。

 

既に0時も近く、

 

列に並んだら夫の実家に着くのは

何時になるか見当もつかない。

 

そんな時、

A美が境内の右の外れを指差して、

 

「あの御社がすいているよ」

 

と言った。

 

見れば、

 

参道から少し外れたところにある、

細く長い石段の先に、

 

小さな境内社が見える。

 

時間もないため、

私達はそこへお参りすることにした。

 

境内社には、

青白い灯りが燈っていた。

 

社の隣には授与所があり、

 

年老いた巫女が御守を並べて

黙って立っている。

 

「この社は町の文化財なんだよ。

 

G神社は戦時中に一度、

火事で焼け落ちた。

 

その日もちょうど、

今日と同じく大晦日で、

 

沢山の参拝客が火に捲かれて

亡くなる大惨事だったけれど、

 

この社は火の手を免れて、

 

戦後、この境内社に

移設されたんだ。

 

本殿は戦後に建て直されたものだよ」

 

Rがウンチクを述べた。

 

私達は賽銭を投げ、

来る年の安寧を祈願した。

 

※安寧(あんねい)

社会が穏やかで平和なこと。安泰。

 

目を瞑り、

願をかけていた時、

 

突然、A美が

 

「え、なに、なに!?」

 

と怯えた声を出した。

 

私も夫も驚いて目を開けた。

 

A美は腰を両手で押え、

私達を見て何かを訴えようとした。

 

が、すぐに腰から手を離し、

 

今度は誰かを探すように、

周囲を見回した。

 

「どうかしたの?」

 

と、夫が尋ねると、

A美は不安げな顔で、

 

「誰かが私の腰に抱き付いた様な気が」

 

と言い、

次いで付け加えた。

 

「それと、『あそんで』って

声が聞こえた」

 

私は「気のせいでしょ~」

とA美に告げたが、

 

薄暗く人気のない社の雰囲気も手伝い、

少し怖くなった。

 

隣では夫が眉をひそめていた。

 

「とにかく帰ろうか」

 

夫が呟いた。

 

参道から年越しを告げる歓声が

沸き起こった。

 

私達がその社を去ろうとした際、

授与所にいた巫女がポツリと、

 

「おまもりを持ってお行き」

 

と呟いた。

 

私と夫は、

 

その老婆が俯いて目を閉じたまま

語りかける姿が気味悪く、

 

また、御守自体も、

 

剥き出しの木に紋様が刻まれた

得体の知れない代物であったため、

 

受け取らなかった。

 

ところが、

A美は一つ貰ってきた。

 

代金はかからなかった。

 

帰りの車の中でA美が腰が痛いと

しきりに訴えるので、

 

私は彼女の腰をさすってあげた。

 

「そんな変な御守どうするの?」

 

と私が尋ねると、

 

「なんか怖かったから、

厄除けにもらった」

 

と、妹は答えた。

 

Rの実家には、

予定の午前1時より少し前に着いた。

 

義父と義母が私達を出迎え、

居間に通してくれた。

 

義父は町役場の古株で、

義母は教員。

 

二人ともこの町の生まれで、

郷土史研究を趣味にしている。

 

新年の挨拶を手短に済ませた後、

私と妹は客間で寝ることになった。

 

寝屋の支度をしていると、

 

A美が小さな飾り棚に置いてあった

お手玉を手に取り、

 

「珍しいね。

私やったことがないや」

 

と言った。

 

私達は程なく床に就いた。

 

その夜更け、

私は物音で目を覚ました。

 

慌てて部屋の明かりを点けると、

 

隣で寝ていたA美が白目を剥き、

口から泡を吹いて痙攣している。

 

私は驚いて「A美!A美!」と、

何度も妹の名を呼んだ。

 

声が聞こえたのか、

 

隣の部屋で寝ていた夫が

飛び込んできた。

 

気が付けば、

妹の発作は治まっており、

 

スヤスヤと寝息を立てている。

 

私達は安心し、

寝床に戻った。

 

(続く)魔漏という邪悪な御守の話 2/3

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