普段の景色に何気なくある違和感
その昔、祖父から聞いた話。
もう祖父は他界しているが、存命の時によくサシで酒を飲むことがあった。
片目は失明していたが、大病もせず元気だった。
なにより人柄がとても良かった。
祖父は話好きで、よく本当か嘘か分からない話をしてくれた。
その中でも印象に残っている話を紹介しよう。
死神にでも魅入られていたのかね?
// ここから祖父の話 //
幽霊とか呪いとか、そういう類のものは基本として目に見えないだろ?
でも俺が一番畏怖するものは、『普段の景色に何気なくあるもの』なんだよ。
※畏怖(いふ)
恐れおののくこと。
例えば、散歩する時には景色を見ながら進むわけだ。
その時にいちいち、ここに看板があって、あそこに花が咲いていて、家が何軒あって・・・とかは、わざわざ確認して歩かない。
なんとなくぼやっと視界にある。
だがそれだけで十分に散歩は出来る。
しかし、そこになんとなく異物というか、あるはずもないものが目に映ると確認してしまうわけだ。
例えば、いつもの散歩道で昨日まであった建物が壊されているとか、通り道に大きな冷蔵庫が捨てられているのを見るとか。
でもそういうのは慣れてくる。
一週間後には、それらも景色の一部として認識出来てくるだろう。
でもどれだけ経っても違和感が拭えないものがあるんだ。
俺の場合は『カカシ』だったんだよ。
ある日、田んぼにちょっと気味悪いカカシが立っていた。
最初は、「何だこれ?気味悪いなぁ」と思った。
でも何度見ても慣れないんだよ。
それどころか、ますます気味悪くなってくる。
景色にそのカカシがある事が生理的に受け付けなくなってくる。
そうすると、夢にまで見るのな。
それで不思議な事に、視界の端に映るようになる。
嘘だと思うだろ?
でも本当なんだ。
一回や二回なら見間違いだろうと思う。
だけど日に何回も見るようになってな。
それで病院に行くと、ほとんど右目の視力がなくなっていたわけだ。
手術したけどダメだった。
俺の目は死神にでも魅入られていたのかね?
// 祖父の話はここまで //
祖父の片目の視力がないのは知っていたが、そんな理由だったのか・・・と思うほど俺も幼くなかった。
だが、その話は何故かすごく印象に残っていて、当時は少し怖かった。
最近その事を祖母に聞いてみたら、「あの人、目は昔から悪かったよ。本ばっかり見て、瓶底みたいな眼鏡を掛けとった。その言い訳だろう。都合の悪い事は全部不思議話に持っていく人だったからね」と、いくつかエピソードを披露してくれた。
祖父から聞いた話はほとんど荒唐無稽であったが、嬉しそうに話すばあちゃんを見ると、ちょっとじいちゃんが恋しくなった。
(終)