別世界へ行ける手まり唄 1/4
深夜十一時。
僕と友人のKは、
今はもう使われていない
とある山奥の小学校にいた。
校庭。
グラウンドには雑草が生え、
赤錆びた鉄棒やジャングルジム、
そしてシーソー。
現在は危険というレッテルを貼られた、
回転塔もあった。
僕とKはこの小学校に、
肝試しに来たのだった。
本当はもう一人、
Sという友人も来る予定だったのだが、
あいにく急な用事が入ってしまった様で、
二人で行くことになった。
野郎二人で肝試しとは
別の意味でぞっとするが、
このKと言う奴は、
幽霊を見るためなら他の条件が何だろうと、
お構いなしなのだ。
ただ一つの条件を除いて。
「・・・だってよー。
一人じゃ『見た』っつっても
誰も信じてくれねえじゃん?」
もっともらしい理由だが、
僕は知っている。
こいつは実は怖がりなのだ。
それでもって熱狂的なオカルトマニアで、
心霊スポット巡りが趣味なのだ。
しかしそんなKのおかげで、
僕は普通なら見ることの出来ないものも
いくつか見てきた。
「Sの野郎、正解だったなー、
ここハズレだわ」
「うーん・・・、確かにね。
物音ひとつしなかったしなあ」
ハズレならハズレでそれは有難いのだが、
僕だって怖いものは怖い。
でも興味はすごくある。
6:4で見たいけど見たくない。
分かるだろうかこの心理。
というわけで、
僕らはさっきまで学校内を
ウロウロしていたのだが、
あいにくここで自殺したと言う、
生徒の幽霊は見ることが出来なかった。
懐中電灯を消したり、
わざと別々に行動したり、
音楽室も理科室も怖々覗いたのだけれど、
結局、何も出なかった。
時間が悪かったのか、
それともKが
「くおらー、幽霊でてこいやーっ!」
などと怒鳴りながら、
探索してたせいだろうか。
そうして、
僕らは幾分がっかりしながら、
小学校のグラウンドに出たのだった。
「で、どうすんの?帰る?」
と僕はKに聞いた。
Kは明らかに不満そうな顔をして、
いつの間にか拾ったらしい木の枝で、
地面にガリガリ線をひいていた。
黙ってその様子を眺めていると、
Kは地面に二メートル四方ぐらいの
正方形を描いた。
次いで、
その図の中に十字線がひかれる。
田んぼの『田』だ。
Kが顔を上げて僕の方を見た。
その顔から不満そうな表情は消えて、
ににん、と笑う。
「なあなあ、お前、
『あんたがたどこさ』って知ってっか?」
いきなり尋ねられ、
僕は少しあたふたしながら
脳内のタンスから、
その単語の情報を引っ張り出した。
「知ってる。手まり唄だろ。
まりつきながら、ええと・・・
あんたがったどこさ、ひごさ、
ひごどこさ、くまもとさ」
「分かった分かった。・・・じゃあよ、
『あんどこ』って知ってるか?」
「あんどこ?」
『それは知らない』と僕が首を振ると、
Kは手にした木の棒で、
今しがた地面に描いた図形、
田んぼの田を指した。
「『あんどこ』ってのは、
この四つの四角の枠の中でな、
リズムに合わせて飛ぶんだよ。
右、左と基本は左右交互に飛んで、
あんたがったどっこさっ、の『さ』の部分だけ
一瞬前に飛んで、戻る。
いいか?よく見てろよ」
どうやら手本を見せてくれるらしい。
せーの。
「あんたがったどっこさあっ!
ひっごさ。ひっごどっこさ!?
くまもっとさ!くまもっとどっこさ?
せんっばさあっ!!」
大声を張り上げながら、
Kは自分で作った図の中を、
前後左右に
ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「・・・とまあ、大体こんな感じだな。
分かったろ?」
と言われても、
僕としては首を傾げるしかない。
こいつは一体何がしたいんだろうか。
分かったのは、やはりKは
とてつもなく音痴ということだけだ。
「今のが『あんどこ』
・・・まっ、遊びだ。遊び」
「へえ・・・で?」
もしかして、それを
僕にもやれと言うのだろうか。
しかしKの顔には、
まさにそう書いてある。
「で、じゃねえよ。お前もやんだよ。
二人で『あんどこ』」
「やだよ。なんで僕がそんなこと」
「何でってお前・・・しらねえの?
ま、噂だけどよ。
これ二人で目えつむってやったら、
なんか『別の世界』に行けるんだとよ」
およ?、と思った。
せっかく小学校に来たのだから、
ただ単に昔を懐かしんで子供の遊びをやろう、
と言うわけでもないらしい。
それなら面白そうだということで、
僕はその『あんどこ』をやることにした。
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