別世界へ行ける手まり唄 4/4

その瞬間、

せきを切った様に走り出していた。

 

そうだ。

あんたがたどこさ。

 

そうだった。

 

僕は走る。

誰も居ない学校に向かって。

走りながら呟く。

 

「あんたがたどこさ。ひごさ、

ひごどこさ・・・」

 

そうだよ。

あの唄は、元々・・・

「・・・手まり唄じゃないか!」

可能性は見当もつかなかった。

 

客観的に見て、

まるで高く無いとは思う。

 

何をどうすればいいかも

分からなかった。

 

けれど、何故か確信出来た。

これが元の世界に戻るやり方だと。

 

僕は小学校の校舎脇を走り抜け、

裏手に回った。

 

目当ての建物は校舎じゃない。

 

あった。

体育館。

 

入口に鍵はかかっていたけれど、

床近くにある通風孔が一部壊れていたので、

そこに身体を滑り込ませて中に入った。

 

暗い。

懐中電灯を点ける。

 

しかし、幽霊でもいいから

出てほしい気分だった。

 

体育館倉庫には、

幸運にも鍵は掛かっていなかった。

 

錆付いて重たい扉をスライドさせる。

 

中には、ここが小学校として

機能していたころの名残が、

そのまま置いてあった。

 

目当てはバスケットボール。

 

ほぼ全部のボールが、

空気が抜けて萎んでいたが、

空気入れを見つけ、

それを使ってボールに命を吹き込む。

 

空気の入ったバスケットボールを持って、

僕は体育館の中央に立った。

 

床にボールを落とす。

ダム、と音がして勢いよく跳ねる。

 

再び両手にボールを抱え、

僕は目をつむった。

 

深呼吸。

いっせーのーせいっ!

 

「・・・あんたがったどっこさ、

ひーごさ、ひーごどっこさ・・・」

 

唄い出すと同時に、

バスケットボールをつく。

 

目をつむったまま、

『さ』の部分で片足を上げ、

ボールの上を通過させる。

 

ちなみに、

僕は元バスケット部だ。

 

「くーまもっとさ、くーまもっとどっこさ、

せんばさ・・・」

 

心臓が鳴っていた。

また足が震えだした。

 

唄いながら自分自身を鼓舞する。

もう少しだ、頑張れ僕。

 

「ちょいとかーくー、すっ!」

 

最後に思いっきり力を込めて、

ボールをついた。

 

ボールは今までの最高速度で

地面にぶつかり、

僕の頭より高く上がったはずだ。

 

そして僕は目をつむったまま、

その場で足を軸に一回転した。

 

意味は無い。

自分でハードルを上げただけ。

 

両腕を前に出す。

この中にボールが落ちて来るのか。

 

時間にすれば二秒は無かったと思う。

でも長かった。

 

腕の中にボールが落ちる感触はない。

 

しかし、いつまで経っても、

ボールが床に落ちる音もない。

 

しばらくそのまま目をつむっていた。

開けるのが怖かった。

 

でも、足の震えは、

いつの間にか止まっている。

 

深呼吸、一回、二回。

僕は目を開けた。

 

バスケットボールが消えていた。

 

「・・・うわー」

 

・・・うわー・・・うわー、うわー・・・

 

僕の声がこだまする。

 

でもそれは体育館だったから、

当たり前だったのだ。

 

そのことに僕が気が付くまでに、

相当の時間を要したけれど。

 

耳を澄ませば、外で鳴く虫の声が

かすかに聞こえた。

 

僕は携帯を取り出す。

アンテナが一本立っていた。

 

信じられないだろうが、

携帯のアンテナが一本立っていたことに、

僕は本当に飛び上がって喜んだのだ。

 

その瞬間、

僕の手の中の携帯が鳴った。

 

Sからだった。

急いで出た。

 

『・・・よお。ところでお前さ。

いま、小学校にいるのか?』

 

Sの声。

 

不覚にも泣きそうになりながらも、

僕は「うん、うん。そうだよお!」

と大声で返事し、若干ひかれた。

 

ガンッ。

体育館にすさまじい音が響く。

 

何事かと思って音の方を見ると、

ちょうど体育館の裏口が蹴破られて、

息を切らしたKが中に入って来た。

 

そしてKは懐中電灯を、

こちらに向けた。

 

「お。・・・おおう。

こんなとこに居やがった。

・・・マジでありえねーし。

目え開けたらいきなり居ねえんだもん・・・

マージーありえねえよまったくよお・・・」

 

そう言ってKは、

「あーうー、だあーもう疲れた・・・」と、

体育館の床にだらんと寝そべった。

 

電話の向こうでSが何か言っている。

僕は黙っていた。

 

戻ったら絶対一発ぶん殴ってやろうと

思っていたのだけれど、

 

体育館の床の上で、

「うーんうーん疲れたよーい」

と唸りながら転がるKを見ていると、

何だかその気も失せた。

 

僕は受話器を耳にあて直し、

Sに向かって言う。

 

「とりあえず、帰るよ」

 

『ん?・・・おう、そうか』

 

それから、

帰りにSの家に寄る約束をして

電話を切った。

 

そうして、

まだ床でごろごろしているKを

軽く一発蹴ると、

 

実はぼろぼろ泣いていた奴を

引っ張り起こして、

二人で車まで戻った。

 

運転席に座ったKが、

鼻をすすりながらエンジンをかける。

 

小学校から少し下ると、

街の夜景が見えた。

 

助手席の窓から見たそれは、

僕にとって今まで見た

どんな夜景よりも綺麗で。

 

それは決して、僕の目が

涙で滲んでいたからではない。

 

しかしながら、

自分で言うのもなんだが

不思議なことに、

 

これだけの経験をしても、

もうこりごりだとは思っていない。

 

あんたがたどこさ。

どこでもいいよ。

 

けれど、

次は三人で行きたいなあと思う。

 

(終)

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