別世界へ行ける手まり唄 3/4

小学校の入口に目を向けた僕は、

『それ』に気がついて、ぎょっとする。

発作的に走り出していた。

 

学校の外には車が停めてあったが、

鍵は持っていない。

 

それよりも、この小学校は

山を少し上った位置にある。

 

ここに来る時、

小学校に入るすぐ前の道からは、

下の街の夜景が一望出来たのだが。

 

そこは街を見下ろせる場所。

 

絶句する。

街が無かった。

 

いや、正確に言えば、

遠目ではあったがそこに街はあった。

 

ただし、

その街には明かりがただの一粒も

灯っていなかった。

 

街が黒い。

いくら深夜でもあり得ない光景だ。

 

僕はその場にへたり込んでしまった。

 

ようやく確信する。

僕は異世界への扉を開けてしまったのだ。

 

帰る手段は知らない。

 

ぞわぞわと、ゆっくり、

足元から恐怖が這い上がって来る。

 

どうしよう。

 

僕は立ち上がって、

学校へと戻った。

 

とりあえず、

何かの考えがあったわけではない。

 

あのままじっとしていて、

正気が保てるかどうか怪しかったのだ。

 

学校の校庭。

赤錆びた鉄棒、シーソー、回転塔。

 

グラウンドの中央あたりに、

Kが描いた図形。

 

僕はその中に入って、

再びへたり込んだ。

 

何をしていいか分からない。

Kを探そうか。

でも無駄な気がする。

 

「わっ!」

 

意味も無く叫ぶ。

こだまする。

一体何なんだこの反響音は。

 

僕はもっともっと、

遮二無二叫びたい衝動を

懸命に押し殺した。

 

駄目だ。

冷静になれ。

 

人は考えに考えた末、

壁を避けて通ることを覚える。

 

これはたしか、

友人のSが気に入っていた言葉だ。

 

考えなければ、

アイデアは生まれない。

 

考えろ、僕。

 

そこで一つ思い至る。

僕が今座りこんでいるこの地面の図形。

 

僕はこの図形からここに来たのだ。

『あんたがたどこさ』によって。

 

では、同じことを繰り返せば、

元の世界に戻れるのではないか。

 

俄然元気になった僕は、

図形の中に立つ。

目をつむる。

 

せーの。

 

飛ぶ。

唄う。

間違えない様に、慎重に。

 

「かーくー、・・・っせ!」

 

どうだ。

目を開く。

 

風景に変わりは無い。

しかし、静かだ。

 

どうだ、僕は戻れたのか?

 

「・・・わっ」

 

・・・わっ、わ、わ・・・

 

こだました。

僕は戻れなかったようだ。

 

それから何度かパターンを変えて

試してみた。

 

スタートの位置を変えてみたり、

飛び方を変えてみたり、

Kの様に音痴に唄ってみたり。

 

けれども、

いずれも効果は無かった。

 

もしかして、

二人でなくては駄目なのか。

一人では駄目なのか。

 

一人。

無音。

暗闇。

怖い。

 

いかんいかん、冷静になれ。

後頭部を叩く。

考えろ考えろ僕の頭。

 

もしもだ、

僕が『あんたがたどこさ』によって、

ここに来たとする。

 

そうだとしたら、

その歌詞に何かヒントが

隠されていないだろうか。

 

僕は『あんたがたどこさ』の歌詞を

頭の中でなぞってみた。

 

肥後・・・熊本・・・せんば山。

そこで僕はふと思い至る。

 

あの歌詞の中で、

隠されたのはタヌキだ。

 

鉄砲で撃たれて、

煮られて、

焼かれて、

木の葉で隠される。

 

もしかして僕はタヌキ?

だったらKは猟師だろうか。

 

しかし、そんなことに気付いても

どうにもならないのだった。

 

足元からじわじわ上って来る恐怖が、

膝を越えた。

 

足が小刻みに震えだす。

 

まずい、

正気の僕に残された時間は、

割と少ないらしい。

 

勘弁してくれ。

僕だって怖がりなのだ。

 

一人は怖い。

 

いつもはどんな心霊スポットに行っても、

それほど怖くは無い。

 

何故なら、僕の隣には

SとKが居るからだ。

 

そう言えば、今日は三人じゃなかった。

それがいけなかったのかもしれない。

 

Sが今日来れなかった。

急にバイトが入ったと言った。

 

けれどさっき、

僕とKが学校の探索をしている時に

メールが来ていた。

 

その時の僕は廃校探索に夢中で、

Sからだと知っただけで

メール自体は見てなかった。

 

それを思い出した僕は、

ポケットから相変わらず圏外で役に立たない

携帯を取り出した。

 

操作してメール受信画面を開く。

『今何処にいる?』

それがSからのメールだった。

 

それが分かれば苦労しない、

と僕は思う。

 

そうして僕は、

足の震えと共に少しだけ笑った。

 

このメール内容。

あんたがたどこさ、じゃないか。

 

「あんたがったどこさ。ひごさ、

ひごどこさ・・・」

 

僕は無意識の内に唄い出していた。

 

そろそろ正気がやばい。

立っていられなくなりそうだった。

 

唄いながら、

この足では毬をまたぐことも出来ないな、

と思った。

 

「・・・くま・・・え?」

 

足の震えが止まった。

僕は気が付いたのだ。

 

(続く)別世界へ行ける手まり唄 4/4へ

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