別世界へ行ける手まり唄 2/4
Kの説明によると、
田んぼの田の形に区切られた
四つのスペースの内、
まず二人がそれぞれ左ナナメに
相手が居る様にして立つ。
それから目をつむり、
暗闇の中で『あんたがたどこさ』
を唄いながら飛ぶ。
スタートは左に。
全てを唄い終わり、
『ちょいとかーくーす』の『す』で
前に飛んで終了、
そこで目を開ける。
何が起こるかはお楽しみ。
注意事項として、
歌を間違えたり、飛び方を誤ったり、
相手にぶつかったり、目を開けた時に
田んぼの田からはみ出したら失敗。
「んじゃ。行くぞ」
「ちょっと待って」
「何だよ?」
「いや、ちょっと気になったんだけど。
『あんどこ』が成功してさ。その、
Kが言う妙な世界にもし行けたら、
・・・帰ってこれんの?」
するとKは「うはは」と笑い、
「シラネ」と言った。
「おいおい・・・」
「まあいいじゃねーか。
さ、はじめっか・・・。目をつむれーっ!」
まあいいのか?と思いつつも、
僕は目をつむった。
せーの。
あんたがったどっこさ・・・
「イテっ!」「あたっ」
いきなり間違えた。
慣れないと意外に難しいのかもしれない。
「おいおいお前、ちゃんとやれって!」
「あははのは。ごめんごめん。
次は、さ?」
「ったくよー」
頭の中でシュミレーションする。
交互に交互に・・・さ、で飛ぶ。
いっせーの。
「・・・いてっ」
正面衝突。
一瞬間違えたのかと思って謝りかけたが、
よく考えてみると、僕は間違っていない。
目を開けて見ると、
Kが手刀をかざして「わりーわりー」。
「次は本気で行くからよ」
僕は何だか急に馬鹿らしくなってきたが、
あと一回くらいはやってみようかと思う。
いっせーのっせ。
あんたがったどっこさ、ひーごさ、
ひーごどっこさ、くーまもっとさ、
くーまもっとどっこさ、せんばさ・・・
せんーばやーまには、たーぬきーがおってさ、
それーをりょーしがてっぽでうってさ、
にーてさ、やいてさ、くってさ・・・
・・・それーをこーのはでちょいとかーくー
「 せっ 」
前へ飛んで僕は目を開いた。
四角の中に居た。
成功だ。
ちょっと誇らしい気持ちになって、
僕はKはどうかなと思い振り返った。
そこにKの姿は無かった。
「・・・え?」
右を見て、左を見て、
もう一度右を見て。
僕は、ははあ、と思う。
全てはこのためだったのだ。
『目をつむったままのあんどこ』
などという凝ったことをさせておいて、
Kは唄の途中でこっそり抜け出し、
僕がおろおろするのを
隠れて見て楽しむつもりなのだ。
Kの奴め。
僕は何とかしてKを見つけてやろうと思い、
そこら中を注意深く見渡した。
グラウンドに身を隠せるような
場所は少ない。
しかし、Kは見つからなかった。
うまく隠れたものだ。
そうして僕は、持っていた懐中電灯で
地面を照らした。
グランドにKの足跡が残っているかも、
と思ったのだ。
しかし、足跡は無かった。
おかしい。
その時だ、
違和感を覚えた。
僕らはさっき、
前後左右に飛び跳ねてたはずだ。
足跡はともかく、
その飛んで着地した痕跡までない。
地面に見えるのは、
Kが描いた図形だけ。
僕は二歩三歩と歩いてみた。
足跡は付く。
これはおかしくないだろうか。
辺りをもう一度見回す。
誰も居ない。
風の音もしない。
さっきまでは吹いてたはずだ。
そう言えば、
虫の声も聞こえなくなった。
「おーい・・・」
おーい・・・、おーい、おーい・・・
僕はその場に飛び上がった。
Kを呼ぼうと叫んだ瞬間、
まるでトンネルの中に居るかのように、
僕の声が周囲にこだましたのだ。
やまびこでは無い。
ここは広いグラウンド。
後ろに学校はあるが、
何度も音が反響するなんて
絶対におかしい。
僕は途端に怖くなった。
「なあっ、おーいっ!」
二度目。
返事は無い。
僕の声だけが、
辺りにしつこくこだまする。
ふと思い至って、
ポケットの中の携帯電話を取り出した。
圏外。
確かにさっきまでは使えたのだ。
学校の中でSからのメールも受信した。
『別の世界』
Kが言った言葉がふと頭をよぎる。
ここはもしかして、そうなのか。
あんたがたどこさ。
ここは、どこだ。
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