言伝 3/4

目の前ではKが屈みこみ

人工呼吸をしている。

 

僕はその様子をただぼんやりと

眺めていた。

 

身体を起こしたKが、

びくり、と震える。

 

何だろうと思った。

 

そのままKは動かない。

 

心臓マッサージを

続けないといけないのに。

 

Kはただ、

自分の両手を眺めていた。

 

「・・・K?」

 

僕が呼んでも反応は無い。

 

それからKはふらっと立ち上がると、

 

男の身体越しにガードレールを掴み、

そこに人指し指を当てた。

 

何かを書いている様だった。

 

不安になった僕はKに近寄り、

その肩を掴んだ。

 

その瞬間、

 

何か電気の様なものが

Kの身体を通じて、

 

僕の足の先から頭のてっぺんまで

走り抜けて行った。

 

驚いて思わずKの肩から手を放す。

同時にKが僕の方を振り向く。

 

K「・・・いちよんななきゅう」

 

「え?」

 

唐突にKが言った。

 

K「おい・・・、

 

『いちよんななきゅう』

って何だ?

 

それに、『みさき、ゆか』

って何だ。人か・・・?」

 

いきなり矢継ぎ早に質問され

僕は狼狽する。

 

僕にはKが何を言っているのかも

分からない。

 

その思いが顔に出ていたんだろう。

Kもはっとした表情になる。

 

S「何してんだ?」

 

と横からSの声がする。

 

K「・・・いや、何でもねえ。

・・・わりい。

 

俺もまだ何が何だか

分かんねえから・・・」

 

そうしてKは僕の方を向いて、

 

K「ちょっと代わってくれ。

頭がガンガンする・・・」

 

目の辺りを押さえ、

 

未だフラフラしながらKは

その場を離れた。

 

残された僕は、

 

Kが先程掴んでいた

ガードレールを見やる。

 

そこには赤く掠れた血文字で、

辛うじて『1479』と書かれていた。

 

それから僕はKと交代して

救命処置を行った。

 

Sの言った通り、

男は確かに冷たかった。

 

救急車と警察がやってきたのは、

 

僕がKと代わってから

五分程経った後のことだった。

 

男が担架に乗せられ

運ばれて行くのを横目に、

 

僕らは警察の質問に答えた。

 

答えていたのは

もっぱらSだけれど。

 

三人とも訊かれたのは

氏名と住所。

 

もっと面倒なことになるのかなと

思っていたのだけれど、

 

しばらくすると警察に、

 

「もう帰ってもいいよ」

 

と言われた。

 

僕ら三人は顔を見合わせて、

黙って車に乗り込んだ。

 

やるだけやったという思いも無く、

僕らはただ疲弊していた。

 

帰り道、車内には

なんの会話もなかった。

 

それから二~三日経った日の

朝のことだった。

 

突然Kから電話が掛かって来た。

 

黒いスーツを持ってないか

ということだった。

 

どうするのかと訊いたら、

『葬式に出る』と言い、

 

誰の葬式に出るのかと尋ねたら、

 

あの事故に遭った男性の葬式

だとKは答えた。

 

『言わんといけないことがあるからな』

 

車はSが出してくれるらしい。

 

Kがどうするつもりか

気になった僕は、

 

スーツを貸す旨と、

自分も付いて行くとKに伝えた。

 

葬式の会場は、

 

偶然にも僕らが事件の日に訪れた

廃マンションのすぐ近くだった。

 

すでに多くの人が集まっており、

 

僕とSを車に残してKは一人

会場の中へと入って行った。

 

「どうしたんだろ。K。

・・・Sは何か聞いてる?」

 

S「いや」

 

行きの車の中、

 

Kは何事か考えている様で

ずっと無言だった。

 

ただ単に車に酔っていただけかも

知れないけれど。

 

車の中で待っていると、

思ったよりも早くKは戻って来た。

 

ドアを開け、

 

気だるそうな動作で

後部座席に座ると、

 

K「・・・あーあ」

 

と呟き、

 

K「・・・おう、悪かったな、

付き合わせて。

 

ほれ、帰ろうぜ」

 

と言った。

 

Sは何も言わず車を出した。

 

当然だけれど、

 

帰り道の途中に事故のあった

現場を通り過ぎる。

 

思わず注視してしまう。

 

事故があった痕跡は、

もう路面のタイヤ痕だけだった。

 

K「被害者は・・・、

首をやっちまってたらしい」

 

後部座席からKの声がした。

 

K「頸椎だっけ?

が折れるか断裂かしてて、

 

だから痛みも感じず死んだはずだって。

言われたわ。奥さんに」

 

まるで独り言のように、

ぽつりぽつりとKは言葉を紡ぐ。

 

K「それに、俺らが見つけたのは、

意識も呼吸も脈も無くなってからだった。

 

だったら最後の言葉なんて

残せるはずもないよな。

 

泣きながら言われたよ。

 

『お心遣いは有難いですが、

馬鹿にしないでください・・・』

 

だとさ。

 

・・・まあ、当然だけどな。

警察にも言ってないことだし」

 

(続く)言伝 4/4へ

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