言伝 4/4

最後の言葉。

僕は思い出す。

 

あの時、数字と共に

Kが呟いた言葉があった。

 

『みさき、ゆか』

 

Kはそれを伝えに来たのだ。

 

けれど、それは生きている人間が

発した言葉ではなかった。

 

普通の人には決して

聞くことの出来ない、

 

死人の言葉。

 

K「理解されないってのは

分かってるんだがなあ・・・。

 

覚悟もしてた。

 

でも、こうなんだよなあ。

壁があってさ。

 

その向こう側に何があるかなんて、

見える奴にしか分からねえんだ」

 

そうしてKは、

 

K「やっぱそうだよなー・・・」

 

と呟いた。

 

三人とも口をつぐみ、

しんとする車内。

 

急に亡くなったばかりだし、

今は時期が悪かったんだ。

 

Kは悪くない。

当然のことをしただけだ。

 

言うべき言葉は山ほどあったのに、

その全てが口の中で空回り、

 

外に出ることなく萎んでいった。

 

けれども何か言わなければと思い、

僕は無理やり口を開く。

 

「・・・ラーメン」

 

意識していたわけでは無かった。

ただ、出てきた言葉がそれだった。

 

どうしてラーメン。

自分でも分からなかった。

 

見ると二人が何事かという

表情をしていた。

 

「ラーメンだ・・・。そうだ、

ラーメンを食べに行こう!

 

お腹が減ったしさ、

時間もちょうどいいしさ、

 

前には行けなかったわけだしさ」

 

ヤケになって喋る。

 

けれども、

 

今がお昼時なのも事実だし、

お腹が減っているのも本当だ。

 

そして何より

ラーメンはKの好物だ。

 

Sが小さく吹き出す様に笑った。

 

S「そうだな・・・。

どっか寄ってくか」

 

賛同してくれたことに

僕はホッとする。

 

その途端、車の中の温度が

少し上がった様な気がした。

 

K「あ、でもさ。実は俺、

今日は金ねぇんだけど・・・」

 

とKが言う。

 

またかと僕がつっこむ前に、

 

Sが前を向いたまま、

ひらひらと片手を振った。

 

S「いい。おごってやるよ」

 

その親切な言葉に

Kは驚いて固まっていた。

 

僕も吃驚してSを凝視する。

 

こいつは本当にSだろうか。

そんな疑問まで浮かぶ。

 

K「マジで・・・?」

 

S「香典で使って金がねえんだろ。

だったら、おごってやるよ」

 

Sの言葉に僕は思い出す。

 

確かに会場に行く前、

Kは封筒を手に持っていた。

 

K「・・・うおおマジかよ!

言ったなS。

 

だったら俺メッチャ食うぞ」

 

S「別にいい。

でももし車内で吐いてみろ。

 

窓から放り出して轢き殺すぞ」

 

K「上等だ。化けて出てやるよ」

 

「あ、S、じゃあ僕もおごって」

 

S「うるさいお前ら」

 

そうして僕らはその後、

 

走りながら見つけた中華料理店に

立ち寄りラーメンを食べた。

 

結局Sは全員分奢ってくれたし、

結局Kは帰りの道中で車に酔って、

 

醤油ラーメン大盛り餃子セットを

まるごとリバースしたのだけれど。

 

それからKはずっと後部座席で

ダウンしていたのだけれど、

 

K「うー気持ちわりい・・・

殺してくれー・・・」

 

と垂れ流すKは、

いつものKだった。

 

そうして隣では、

 

辛うじて車内では

吐かれなかったものの、

 

S「せっかく奢ってやったのに」

 

だとかSが小言を言っている。

 

いつも通りを久しぶりに

感じた様な気がした。

 

やっぱりこういうのがいい。

 

僕はSの小言を聞きながら、

安堵と共にあくびを一つする。

 

今回のこと。

 

人の死をリアルに

垣間見てしまった後でも、

 

結局懲りずに僕らはまた

オカルトに首を突っ込むのだろう。

 

どうしてかと問われても、

きっと分かりっこない。

 

説明なんて出来るはずもない。

 

そういうモノこそが、

オカルトなのだから。

 

ちなみに後日、

 

僕らが遭遇したひき逃げ事件のことと、

そのひき逃げ犯が捕まったいう記事が

 

地方紙の片隅に載っていた。

 

記事によると、

 

被害者の血で書かれたナンバーが

現場に残されており、

 

それが決め手となったそうなのだが。

 

事故後、頸椎を損傷した被害者は

文字が書けなかっただろうこと。

 

そして、そのナンバーが実は

被害者の死後に書かれたものだとは、

 

何処にも載ってはいなかった。

 

(終)

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