泣き叫ぶ声はどこから

病室

 

去年入院した時に遭遇したほんのり怖い体験。

 

3日間意識がなく、目覚めて初日の深夜に人生初の金縛りに。

 

体が急に強張ったような感覚と共に硬直し、若干パニックになりつつも、「これが金縛りか・・・」などとのんきに構えていた。

 

だが、白いモヤが足元からゆっくりと覆い被さって来ていた。

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私がいた病棟は・・・

「あら幽霊さん初めまして。私は○○です」なんてフレンドリーに頭の中で呟きつつも、視界がどんどん白く塗り潰されていき、これはそろそろ気絶するという直前、見回りの看護士がドアを開け、その瞬間に白んだ視界や金縛りが嘘のように消えた。

 

それからは興奮冷めやらぬで寝れずにいたのだが、昼前から強い睡魔に襲われた。

 

昼寝にはうってつけの日和だったので、横になるとすぐに眠りに落ち、夢を見た。

 

それは明晰夢というもので、昔の古き良き日本家庭の夢だった。

 

※明晰夢(めいせきむ)

自分で夢であると自覚しながら見ている夢のこと。

 

私は小さな女の子になっており、なんとなくこの子の記憶を見ている気がした。

 

数十分で起きるのだが、すぐにまたまどろみ、夢を見る。

 

その都度違う場面なのだが、私の視点はいつも着物を着た女の子だった。

 

木造の家の中で男の子と遊んで笑っていたり、縁側で足をぶらぶらさせていたり、兄と思われる青年におんぶされながら綺麗な林道を眺めていたり・・・。

 

この夢に不思議に思いつつも、とても穏やかで心地よい日常の景色に夢中だった。

 

そのまま夜が更け、目覚めて二度目の夜。

 

昼に寝続けたせいかなかなか寝付けなく、横になりながら天井をボーっと眺めていると、小さく何かの声がした。

 

耳を済ませてみると上の階かららしく、自分から”左斜め上”から聞こえる。

 

さらに耳に意識を向けると、女の子の泣き叫ぶ声がした。

 

その瞬間だった。

 

目の前、頭の中に真っ赤なイメージが次々と沸き上がってきた。

 

あえて表現するなら、血みどろの内臓の中をドロドロになったヒトの群れと一緒にもがいている感じ。

 

とにかくグロテスクで、不気味で、気持ち悪く、泣き叫ぶ声が大きくこだましていた。

 

もう訳が分からなくて、頭が焼き切れそうに熱くなり、気付いたら朝だった。

 

あの夜は一体なんだったのか不気味に思いつつも、あの泣き叫ぶ声が気になった。

 

看護士に上の階に女の子の入院患者がいるのかと訊いてみたところ、ちょっと不思議そうな顔をしながら「うん、いるよ」と軽く答えてくれた。

 

なんだ、夜泣きしたところを自分で変なイメージにしちゃって混乱したのかと納得し、その夜からは何事もなく眠れるようになった。

 

2週間が経過して無事退院することになり、看護士たちにお礼を言って病棟から出た。

 

目が覚めて初日の夜、あの夢のことなどを考えながらエレベーターで1階に降りたところで、はたと気付いた。

 

私がいた病棟は”最上階”だった。

 

私が聞いたあの泣き叫ぶ声はどこから聞こえてきた?

 

あの時、看護士は上の階に女の子の患者がいると言ってなかったか?

 

鳥肌が一気に総立ち、あの看護士に詳しく訊きたかったが、迎えの家族に手を引かれながら帰宅した。

 

それからは特に何事もなく過ごしている。

 

(終)

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