金にうるさい幽霊との交渉

もう退職したけれど、ある大病院で外科部長を務めたことのある医師の話。
その病院の“特別室”、つまり料金の高い個室で、『厚化粧のおばさんの幽霊』が出るようになった。
まあ、場所が場所だけに、幽霊くらいしょっちゅう出たらしいが……。
「気のせいですよ」「錯覚ですよ」と強引に無視していると、大抵はいつの間にか出なくなったそうだ。
でも、そのおばさん幽霊だけは、いつまで経っても出ていってくれない。
特別室に入院するような金持ちの患者は、気に入らなければどんどん他の大病院に移ってしまうから、病院側としても困ってしまった。
そこで、院長が件の外科部長に、「なんとかおばさんを説得して出ていってもらえないか?」と頼んできた。
もともとそのおばさんは外科部長の患者ではなかったので、「なんで私が!?」とさすがに腹を立てて抗議すると、実はそのおばさん、金持ちの華僑の奥さんで、日本語がわからない人だったとのこと。
そして、その外科部長は以前に一時期中国語を習っていたことがあり、適任だと見込まれてしまったのだった。
仕方なくその夜、いわゆる丑三つ時に特別室へ行ってみると、確かに厚化粧のおばさんがいて、黙ってこちらを睨みつけてくる。
外科部長は中国語でこう話しかけた。
「明日からこの特別室の料金が倍になりますから、今夜中に出ていってくださいね」
そう言って、さっさと部屋を後にしたそうだ。
それしきのことで?と思うかもしれないが、本当にそれ以来、そのおばさんは出なくなったという。
「すごいですね。でも、なんでそう言おうと思いついたんですか?」
そう聞いてみたところ、担当の医師や看護師たちと相談している中で、わかったことがあったという。
そのおばさんは、とにかくお金にうるさい人で、「高い料金を払ってるんだから」が口癖だったそうだ。
だからきっと幽霊になってまで居座っていたのも、「払った金の元を取りたい」という性根からだろうと推理したとのことだった。
厚化粧より、そっちのほうがよっぽど怖い。
「金はあの世には持っていけない」というのは、日本人の考え方。
中国の人には通用しないのかもしれない。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、幽霊であっても生前の性格や執着は簡単には消えないということ、そしてときにその“執着”の正体は、恐怖や未練ではなく、極めて現実的で俗っぽいものかもしれないという点です。
お金への執着、それも「払った分の元を取りたい」という、あまりにも人間くさい動機が幽霊としての存在理由になっているという皮肉な可笑しさと、少しの怖さがこの話の核心にあります。
また、幽霊といえども説得や交渉の余地があるという点もユニークです。お祓いや霊能力といった神秘的な手段ではなく、「料金値上げの告知」という実に現実的な手法で解決してしまうところに、人間の行動や心理の根本が何によって動いているのか、という深い観察が含まれています。
そして最後に、「日本的な死生観や価値観は、万人には通用しない」という視点も添えられており、文化や思想の違いが“幽霊”という形でユーモラスかつ風刺的に描かれている点も、この話をただの怪談で終わらせない魅力になっています。

































そういえば盆も近いし死銭を用意せねば