この部屋に何かがいる気がして

部屋に棲みつく男の子

 

当時借りていた部屋では、ラップ音や金縛りは日常茶飯事だった。

 

ただ、何者かの姿を見たり、物理的な攻撃を受けたりすることはなかった。

 

それでも、ずっと妙な気配が続いていたので、意を決して部屋の中で「何となくここだ」と感じた場所をカメラで撮影してみた

 

恐る恐る写真を確認していったが、特におかしなものは写っていなかった。

 

ほっとした反面、「そんなはずはない」と思う気持ちもあった。

 

あるとき、強い霊感持ちとして噂されている知人の伊藤に会う機会があった。※仮名

 

「飯おごるから」と条件を出して、相談を持ちかけてみた。

 

伊藤に部屋の状況を説明し、件の写真を見せる。

 

「何も写ってないけど、右上あたりから何となくイヤな感じがするんだよね」と伝えると、「ここ?ドラえもんみたいな顔があるよ」と。

 

……ドラえもんって。

 

恐怖とは無縁の、ぼんやりした伊藤の描写に拍子抜けしてしまった。

 

「ドラえもんは大丈夫そうだけど、心配なのは……」

 

伊藤は写真の右下を指差して、続けた。

 

「ここに、男の子がけっこうはっきり写ってる。心当たりない?目つきが悪いのが気になる。あまり良いものではなさそうだけど」

 

心当たりなんて、ない。

 

子供の恨みを買った覚えもない。

 

「6歳くらいの子」と言われて、しばらく考え込み、「……あっ!」と、あることに思い当たった。

 

それに被せるように、伊藤も「あっ!」と声を上げた。

 

写真を凝視していた伊藤は、明らかに動揺している様子だった。

 

だが、俺が見ている限り、写真には何も変化はなかったはずだ。

 

俺は、半年前に近所で起きた事故のことを思い出していた。

 

夕方、ちょうど部屋で本を読んでいたときだった。

 

緊急車両のサイレンが近づいてきて、すぐ近くで止まった。

 

赤色灯の光が窓に反射して、外の様子が気になった。

 

窓から覗くと、野次馬が大勢集まっている。

 

つられて現場へ近づいてみた。

 

事故処理車と救急車がいる。

 

その先には、飲料メーカーの運搬車が停車していた。

 

人々の隙間から、路上に掛けられた毛布が見えた。

 

死亡事故だった。

 

自分の野次馬根性に後ろめたさを感じ、その場を後にした。

 

事故はこうだったと、職場の先輩から聞かされた。

 

側道の坂を自転車で下ってきた男の子が、直角に交わる本道へ飛び出したところ、右から直進してきた運搬車に巻き込まれ、頭を轢かれて即死したのだという。

 

写真に写っているというのは……まさか、その男の子なのか?

 

事故現場には、今も丸いシミが残っていた。

 

だが、その道を避けて通るのは難しく、俺は毎日そこを通っていた。

 

接点といえば、それだけのはずなのだが。

 

事故のことは詳しく話さず、「心当たりがあったかもしれない」とだけ伊藤に伝えた。

 

ところで、さっきの伊藤の「あっ!」は何だったのか? 何が見えたのか? と尋ねると、「うーん。お前がさっき『あっ!』て言った瞬間、男の子の首から上がすーって消えていったから、びっくりしてつい」と。

 

伊藤の助言に従い、その部屋は引き払うことにした。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝えたいことは、私たちが日常で感じる「なんとなくおかしい」「説明できないけれど嫌な感じ」という感覚には、時として本当に何かが潜んでいることがある、ということです。

ラップ音や金縛りといった一見軽い怪異も、見えない何かの存在を示していたのかもしれない。本人には見えなくても、他人の視点を通すことで“見えて”しまうものがあり、そこに関係性や過去の出来事がつながってくることで、その存在が具体性を持って迫ってくるという怖さがあります。

また、幽霊の正体が特別に恨みを持って現れたわけではないかもしれないという含みを持たせながらも、「自分はただその場を通っていただけ」という接点の薄さが逆に不気味さを増しています。つまり、霊的なものは“理由がなくても”こちらに関わってくる可能性がある、という不条理さや理不尽さが浮かび上がるのです。

この体験談は、心霊現象というテーマを通じて、「人は見えないものに対してどこまで感知し、どう向き合うべきか」という問いを静かに投げかけているとも言えます。怖いのは霊そのものだけでなく、見えないものに気づいてしまったときに、もう知らなかった頃には戻れないという感覚なのかもしれません。

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