私の家族を救ってくれた猫たち

猫

 

5年ほど前の話です。

 

我が家は庭に建て増しをして、家を広くしました。

 

うちは祖母、両親、兄、妹、私と大人数だったので部屋が増えて嬉しかったのですが、それ以降、我が家は滅茶苦茶になりました。

 

父はお酒をほとんど呑まない人でしたが、理由もないのに酒量が増え、暴力は振るわなかったものの、大声で怒鳴るようになりました。

 

兄はそんな父が嫌で、就職が決まっていた会社の寮に入ると言って家を出て行きました。

 

祖母と妹は、家の中で事故死しました。

 

妹の遺体を見つけたのは母で、突然のことで辛かったせいか、変な拝み屋のところに通いつめるようになり、家事をほとんどしなくなりました。

 

家が広くなってからたった3ヶ月で、これだけのことが起きました。

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猫はうちの守り神

私はというと、ずっと「夢だ、幻覚症状だ」と自分に言い聞かせて誤魔化していたことがありました。

 

家を広くしてから、知らない3人家族を家のあちこちで見るようになったのです。

 

最初に見たのは庭でした。

 

父親らしき男、母親らしき女、子供らしき男の子。

 

格好は古い感じで、3人で記念写真のように立っており、口だけがニヤニヤと笑い、馬鹿にされているような感じでした。

 

そして、いつも私が気付くと3秒ほど経ってから消えます。

 

そんなある日、野良猫が庭に迷い込んできました。

 

うちは動物を飼ったことがなかったのですが、私が学校へ行く時と帰って来る時には必ず玄関にいて待っているその猫が可愛くてしょうがなくなり、父と母の機嫌の良い時に説得し、うちで飼うことにしました。

 

鼻のところにホクロのような模様があったので「ハナちゃん」と名付け、ハナちゃんの存在は安らげない家の中で唯一の慰めでした。

 

ハナちゃんが一緒にいる時は、なぜかあの3人家族を見ることもありませんでした。

 

2ヶ月くらい経った頃、ハナちゃんは急に死にました。

 

朝いつも一番に起きるハナちゃんが起きて来ないので様子を見に行くと、ハナちゃんは冷たくなっていました。

 

獣医さんは「心臓麻痺かな」と言っていました。

 

私はここ3ヶ月に起きたこと、心の拠り所だったハナちゃんがいなくなってしまったことで精神のバランスを崩したのか、全てがどうでもよくなり、感情を表に出すことなく毎日を過ごすようになりました。

 

そんなある夜、ふっと目を開けると、あの3人家族がベッドの脇に立って私を見下ろしていました。

 

そして、ニヤニヤと笑っていました。

 

今考えると恐ろしいのですが、その時はもう「勝手にしてよ・・・」と思っていました。

 

次の瞬間でした。

 

物凄い剣幕で怒っている猫の大きな顔が浮かび上がり、父親らしき男に噛み付きました。

 

3人家族は驚愕の表情で消えました。

 

私もこの時は本当に恐ろしかったのですが、穏やかに変わった猫の顔を見た瞬間、「ハナちゃん!」と叫びました。

 

鼻の横の模様がはっきり見えたのです。

 

翌朝、珍しく母が先に起きていました。

 

なんでも、寝ていたら布団の上から猫の足のような感触で突かれ起きてしまったのだそうです。

 

私は抑えていた感情が一気に溢れ、大泣きしました。

 

母と、起きてきた父を前にして、「酒を呑んで怒鳴るのは止めて。拝み屋に行くのも止めて。こんなんじゃ、おばあちゃんと妹があの世にいけない」と、とにかく泣き叫びました。

 

さすがに両親も分かってくれたらしく、父は家のお酒を全部捨てて病院に通い、母は拝み屋に行かなくなり家事をするようになりました。

 

そんな時、兄から連絡がありました。

 

「子猫を飼ってくれないか?」と言うのです。

 

寮に住み着いた猫がいて、毎晩駅からの帰り道の途中で自分を待っている。

 

可愛くて放っておけない。

 

自分は寮だから面倒みてくれないか?という話でした。

 

ハナちゃんには申しわけなかったのですが、うちで飼うことにしました。

 

そして、学校から帰った夕方に一人で家に居た時です。

 

台所でテレビを見ていると、寝ていた子猫が急に起きて廊下に飛び出ていきました。

 

同時に、廊下でバタバタバタ!と、玄関に向かって走る音が聞こえました。

 

驚いて廊下に出ると、子猫が毛を逆立てて玄関に向かって怒っていました。

 

近付くと、「フィギャアアア!」と猫の怒鳴り声と、「うわあっ!」と男の声が響きました。

 

猫の声は子猫のものではありませんでした。

 

それからは、あの3人家族を見ることは全く無くなりました。

 

兄は猫が気になるらしく、よく家に帰って来るようになりました。

 

父も母もおかしなところは無くなり、家族で月に一度は祖母と妹のお墓参りにも行きます。

 

我が家では、「猫はうちの守り神」と思うようになったせいか、今は7匹の猫がいます。

 

あの時の子猫も大きくなり、今ではボスとして健在です。

 

(終)

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