ずっと目撃者を探しているんです

これは、今の街に越して来て2週間ほど経った頃のこと。
残業を終え、終電で最寄り駅に降り立った俺は、自宅へ向かい急ぎ足で歩いていた。
途中、信号のない高架下の道路と、高架沿いの道路が十字に交差する場所がある。
そこは見るからに暗く、夜間に女性が1人で歩くには危険な雰囲気の横断歩道だった。
その横断歩道を渡りきった瞬間、背後からふいに「すみません」と声をかけられた。
飛び上がるほど驚いて振り向くと、暗い表情の女性がすぐ背後に立っていた。
交差点を渡る前、どの方向を見ても彼女の姿はなく、背後からの足音も聞こえなかった。
それなのに、今ははっきりと目の前に存在している。
不気味な違和感を覚えながらも、幽霊というよりは普通の人間に見えた。
「先週、この交差点でひき逃げ事件があったんです」
「ひき逃げ? そ、そうでしたか…」
「私、ずっと目撃者を探しているんです」
「えっ、個人的に探されているんですか? 警察には届けました?」
俺の問いかけには答えず、女性は右手をすっと上げ、背後を指差した。
「向こうから来た車にひかれたんです」
その言葉に背筋が凍る。
指差された方向を恐る恐る振り返り、再び女性に目を戻した。
しかし、彼女の姿は忽然と消えていた。
恐怖で全身が凍りつき、震える足を無理やり動かしながら、訳のわからない叫び声を上げて全力で帰宅した。
翌朝、恐る恐るあの交差点を確認すると、1週間前の日付で交通死亡事故が発生したことを知らせる看板が立てかけられ、目撃者を募っていた。
(終)
AIによる概要
この話が伝えたいことは、日常の中に潜む不可解で恐ろしい出来事と、それが現実とどこかでつながっているかもしれないという戦慄です。
語り手は普段と変わらぬ帰宅途中に、突然見知らぬ女性から話しかけられます。彼女の存在には違和感がありながらも、幽霊のような非現実的なものには見えません。しかし、会話の流れとともに不気味さが増し、女性が消えたことで一気に恐怖が頂点に達します。そして翌朝、その交差点で本当に事故が起こっていたことを知ることで、語り手が体験した出来事が単なる「気のせい」ではなく、何かしらの現実的な因果を持っていたのではないかという疑念が生まれます。
この話は、私たちが普段暮らしている世界のすぐ隣に、目に見えない何かが存在しているのかもしれない、という不安や恐怖を喚起します。また、事故で命を落とした者の無念が、まだこの世界に残り続けているのではないかという、人間の持つ根源的な恐れや畏れを描いているとも言えます。

































