キジバトに情が移ってしまった俺 2/2

鳩

前回までの話はこちら

近所の駐車場のようなところで、キジバトが車に轢かれていた。

 

もう死んでいたと思う。

 

よく見ると、片足が無かった。

 

なぜか、これはハトマンだという確信があった。

 

何ヶ月も毎日見ていたからだと思う。

 

それで、残されたヒナはどうすればいいんだ?と本気で悩んだ。

 

今もあのヒナはハトマンが餌をくわえて帰って来るのを待っている。

 

枕を涙と鼻水でビショビショにしながら、俺は夜中にずっと泣いていた。

 

まだ庭の木には帰りを待ってるヒナがいる・・・。

 

暗くて怖くて震えているだろうな・・・。

 

考えれば考えるほど、死にそうなほど心が苦しかった。

 

最初の頃と比べるとヒナも随分と大きくなり、もうほとんど大人のキジバトと変わりない大きさだった。

 

次の日、本当にビックリしたのだが、ハトマンが巣にいた。

 

物凄く不思議な感覚だった。

 

俺の勘違いだったのか?という安心よりも、少し怖かった。

 

死んだはずなのに・・・という感覚。

 

なぜか自分が勘違いしていたとは全然思えず、まるで幽霊を見ているような感覚だった。

 

その後の子育ては順調に進み、ヒナも羽が生え変わって立派なハトになった。

 

俺はその成長が嬉しく、猫も追い払えて良かったと思った。

 

そして巣立ちの日。

 

ヒナが巣から出て、枝から枝に飛び移りながら飛ぶ練習を始めた。

 

そうしたらいつの間にかハトマンはいなくなっていて、ヒナは大空に飛び立っていった。

 

次の日、母に「ヒナが巣立って行ったよ~」と言った。

 

すると母が「意味が分からない・・・」みたいな顔をして、「え?」と聞いてきた。

 

「だから、ハトマンが無事にヒナを育て切ったんだよ」と言い直すと、「何言ってるの?親のハトはもう死んじゃったんでしょ?」と母が言ってきた。

 

俺もイライラして、「忘れちゃったの?ハトマンは生きていて、あのヒナを育てたんじゃん!」と言った。

 

そしたら母が少し不気味そうな顔で、俺を見下ろしてこう言った。

 

「あのヒナを育てたのは、あんたじゃない・・・」

 

そう言うと母は、部屋の隅を指差した。

 

そこには鳥を飼育するための大量の餌と本。

 

本は15冊くらいが積み重なっていて、全部ボロボロだった。

 

餌は余りすぎていて、業務用の鳥の餌が腐るほどあった。

 

全然思い出せないのだが、ハトマンが死んでいた日から、俺は人間が変わったようにヒナを育てていたらしい。

 

まるで何かに取り憑かれているように。

 

学校も全く行かず、ハトマンのヒナにべったりだったらしい。

 

母は反対していたらしいが、俺があまりにも涙を流して懇願するので、ヒナを育てるのを了承したとのこと。

 

餌や本にかかった金も半端ではないらしい。

 

気付いたら俺は痩せていて、5キロくらい体重が落ち、栄養失調状態だった。

 

今思えば、あの時にハトマンはやはり死んでいたんだと思う。

 

ハトマンの霊が俺に乗り移り、俺を通して子育てをしていたのではないかと思う。

 

最近、その時の夢をよく見るようになった。

 

もう10年以上経つのに。

 

必死で子育てをしていた気持ちが爆発する。

 

夢の中で俺は、輝くヒナが物凄く愛おしくて、他の何も考えられない。

 

自分はどうなっても、この子を育てる・・・。

 

何をしてでも・・・。

 

足の感覚が片方無い。

 

本当に感情が核爆発している感じで、朝起きると毎日号泣している。

 

何かを絶対的に守らなければならないという感覚。

 

これが母性本能というやつだと思う。

 

俺は人間の男だが、ハトの女の気持ちを夢の中で体験している。

 

夢は単なる夢だが、その感情は本物だと思う。

 

俺が生きているうちには絶対に体験できないことをこんなにも体験できて、今は幸せだと思っている。

 

でも最近その夢をあまりにも見すぎて、朝起きるとしばらく放心状態だ。

 

さすがに少し困ってきた。

 

(終)

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