呪う女 8/18

俺と慎は、警官が追って来ていないことを

充分に確認し、道端に座り込み、

緊急ミーティングを開催した。

 

「これからどーする?」

「どーしよ・・・」

 

俺達は途方に暮れていた。

 

最後の切り札の警察にも信じてもらえず、

『中年女』から身を守る術を失った。

 

これで全てが解決すると

俺達は思い込んでいただけに、

ショックはデカかった。

 

「このままだったら

中年女に住所バレて・・・」

 

俺は恐かった。

 

すると慎が、

「しばらくあの女には

出くわさないように注意して・・・」

と言いかけたが、

 

俺はすぐに、

「もう無理だよ!

淳の学年とクラスがバレてる時点で、

すぐに俺らもバレるに決まってる!」

と少し声を荒げた。

 

「でも、あの女・・・

俺達に何かする気あるのかな?」

 

「?」

 

慎が言い出した。

 

「だってこの前、俺ら学校帰りに

あの女に出会ったじゃん。

 

もし何かするつもりなら、あの時でも

良かったわけじゃん」

 

「・・・」

 

慎が続けて、

「それに山・・・、

もし俺らのことを許してないなら、

山に何らかの呪い彫りとかあっても

いーはずじゃん」

 

「・・・」

 

たしかに。

山に行った時、新しい俺達に対する

呪い的な物は無かった。

 

秘密基地は壊されていたが・・・

 

新しい女の子の釘刺し写真はあったが、

俺達・・・まして、フルネームがバレている

淳の呪い彫りも無かった。

 

俺は内心、そーなのかな?

と反論したかったが、しなかった。

 

慎の言う通り、実は俺達が思っている程

『中年女』は俺達の事を怨んでいない、

忘れかけている、と思いたかった。

 

慎はもう一度、

「俺らを本気で怨んでいるなら、何らかの

アクションを起こすはずだろ?」

と、まるで俺を安心さすかのように言った。

 

そして、

「学校の近くをウロついてるのも、

俺らを捜してるんぢゃなく、写真の女の子を

捜してる可能性もあるだろ?」

と言葉を続けた。

 

「そーか・・・」

 

俺はその慎の言葉を聞いて、少し気持ちが

楽になった感じがした。

 

と言うか、慎の言った言葉を

自分自身に言い聞かせ、自分自身を

無理矢理に納得させようとした。

 

それは現実逃避に近いかもしれない。

慎自身もそうだったのかも知れない。

 

もう『中年女』から逃げる術が見つからず、

言ったのかも知れない。

 

しかし俺達は、

 

「そーだよな!

そのうち俺らのことなんて忘れよる!」

 

「もう忘れとるって!」

 

「なんだよチクショー!ビビって損した!」

 

「ほんま、あの女、泣かしたろか!」

 

とお互い強がって見せた。

ある意味、やけくそに近いかもしれない。

 

しばらくその場で、慎と『中年女』の

悪口などを談笑していた。

 

辺りは薄暗くなり始め、俺達は

帰宅することにした。

 

慎と別れる道に差し掛かって、

「明日の帰り、淳の様子見に行こっか!」

「おう!そやな!」

 

とお互い明るく振る舞って、

手を振り別れた。

 

俺の心は少し晴れやかになっていた。

 

そーだよな・・・

慎の言う通り、中年女はもう

俺達の事なんて忘れてるよな・・・と。

 

まるで自己暗示のように、

繰り返し言い聞かせた。

 

足取りも軽く、石を蹴りながら

家に向かった。

 

空を見上げると雲も無く、

無数の星がキラキラ輝き、

とても清々しい夜空だった。

 

今まで『中年女』の事

でウジウジ悩んでいたのが、

馬鹿らしく思えた。

 

自宅に近づき、

その日は見たいアニメがあるのに気付き、

俺は小走りで家に向かった。

 

タッタッタッタッ・・・

夜の町内に俺の足跡が響く。

 

タッタッタッタッ・・・

静かな夜だった。

 

タッタッタッタ・・・

ん?

 

タッタッタッタ・・・

俺の足音以外に違う足音が聞こえる。

 

後ろを振り向いた。

 

暗くて見えないが誰もいない。

気のせいか。

 

なんだかんだ言って俺は小心者だな、

と思いながら再び走った。

 

タッタッタッタッ・・・

タッタッタッタ・・・

 

ん?誰かいる。

 

俺はもう一度立ち止まり、

目を凝らして後ろを眺めた。

 

・・・やっぱり誰もいない。

 

確かに俺の足音に混じって、

後ろから誰かが走ってくる足音が

聞こえたのだが?

 

俺も淳のように自分でも気付かないうちに、

精神的に『中年女』に追い詰められているのか?

 

ビビり過ぎているのか?

 

しばらく立ち止まり、

ずーっと後ろを眺めた。

 

ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、

一瞬止まりかけた。

 

15メートル程後方、

民家の玄関先に停めてある

原付きバイクの陰に、

誰かがしゃがんでいる。

 

いや、隠れている。

 

月明かりでハッキリ黙視できないが、

一つだけハッキリと見えたものがある。

 

コートを着ている!

しばらく俺は固まった。

 

隠れている奴は、

俺に見つかっていないと思っているようだが、

シルエットがハッキリ見える!

 

俺は一瞬、混乱した。

 

中年女だ!中年女だ!中年女だ!

中年女!中年女!

 

腰が抜けそうになったが、

本能だろうか次の瞬間、

 

逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!

逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!

 

と、もう一人の俺が俺に命令する。

俺は思いっきり走った!

 

(続く)呪う女 9/18へ

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