呪う女 14/18

こっそり淳の病室に入ると、淳のベットは

カーテンを締め切ってあった。

 

寝たのか?と思い、

そーっとカーテンを開けて、

隙間から中を覗いた。

 

「うわっ!」

 

淳が慌てて飛び起き、

「ビックリさせんなよ!」と言いながら、

何かを枕の下に隠した。

 

淳はエロ本を熟読していたようだ。 

 

俺は敢えてエロ本の事には触れずに、

「暇だろーと思って来てやったんだよ!」

と淳の肩を叩いた。

 

淳は少し気まずそうに、

「おぅ!この時間暇なんだよ!

ロビーでも行って茶でもしよか?」

 

と言った。

 

俺は車椅子をベットの横に持ってきて、

淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。

 

淳が、

「ロビー一階だから、

ナースに見つからんよーに行かんとな!」

 

と小声で言った。

 

俺達はコソコソと、まるで泥棒の様に

一階ロビーに向かった。

 

途中、何人かのナースに見つかりそうになる度、

気配を消し、物陰に隠れ、やっとの思いで

ロビーに着いた。

 

昼間と違いロビーは真っ暗で、明かりといえば

自販機と非常灯の明かりしかなく、

淳が「何か暗闇の中をお前とコソコソするの、

あの夜を思い出すよなぁ」と言った。

 

「そだな。何であの時、アイツの事を

尾行しちまったんだろーな・・・」

 

と俺が言うと、淳は黙り込んだ。

 

俺は今日病院に来た理由、

すなわち、『掃除オバさん』の事について

淳に言おうと思ったが、躊躇していた。

 

淳はこの先1ヵ月近くここに入院するのに、

そのような事を言うのは・・・と。

 

またあの時のように、原因不明のジンマシンが

出るかもしれない。

 

すると淳が、

「お前、あのおばさんの事で

来たんじゃないのか?」と。

 

俺はとっさに「え?何が?」ととぼけたが、

淳は「そーなんだろ?やっぱり似てる・・・

いや、『中年女』かもしれないんだろ?」と、

真顔で詰め寄ってきた。

 

俺はその淳の迫力に押され、

「たしかに似てた・・・

雰囲気は全然違うけど・・・似てる」

 

淳はうつむき、

「やっぱり。

前にも電話で言ったけど・・・」

 

と語り始めた。

 

淳は少し声のトーンを下げ、

「俺が入院して二日目の夜、足と腰が

痛くて痛くてなかなか眠れなかったんだ。

 

寝返りもうてないし、消灯時間だったし、

仕方ないから、目つむって寝る努力を

していたんだ。

 

そして少し睡魔が襲ってきて、ウトウト

し始めたとき、視線を感じたんだ。

 

見回りの看護婦だろうと思って

無視してたんだけど、なんか、

ハァ・・・ハァ・・・って息遣いが聞こえてきて、

 

何だろう?隣の患者の寝息かなぁ?

って思って、薄目を開けてみたんだよ。

 

そしたら、俺のベットカーテンが

3センチ程開いてて、その隙間から

誰かが俺を見ていたんだ。

 

その目は明らかに、俺を見てニヤついてる

目だったんだ。

 

俺、恐くて恐くて、寝たふりしてたんだけど・・・

そして、そのまま寝てたらしく、気付いたら

朝だったんだ。

 

後から考えたんだ。

 

あのニヤついた目、

どこかで見覚えが・・・

 

そーなんだよ。『掃除オバさん』の目に

そっくりだったんだよ」

 

ニヤついた目。

俺はその目を知っている!

 

『中年女』に、そのニヤついた目つきで

見つめられた事のある俺には、すぐに

淳の言う光景が浮かんだ。

 

更に淳は話を続けた。

 

「それにあの『掃除オバさん』、

ゴミ回収に来た時ふと見ると、

何かやたら目が合うんだ。

 

俺がパッと見ると、

俺の事をやたら見ているんだ。

半ニヤけで・・・」

 

それを聞き、俺が抱いていた疑問、

『中年女』=『掃除オバさん』

は確信に変わった。

 

やっぱりそうなんだ。

社会復帰していたんだ!

 

缶コーヒーを握る手が少し震えた。

決して寒いからでは無い。

 

体が反応しているんだ。

あの恐怖を体が覚えているんだ・・・

 

その時、俺の後方から突如、

光が照らされた。

 

「コラ!」

 

振り向くと、そこには見回りをしている

看護婦が立っていた。

 

「ちょっと淳君!どこにもいないと思ったら

こんなとこに!消灯時間過ぎてから、

勝手に出歩いちゃダメって言ってるでしょ!

 

それに、お友達も面会時間は

とっくに過ぎてるでしょ!」

 

と、かなり怒っていた。

 

淳は、

「はいはい・・・んぢゃ、また

近いうちに来てくれよな!」

 

と、看護婦に車椅子を押され

病室に戻っていった。

 

「おぅ!とりあえず、気つけろよ!」

と言った。

 

俺もとりあえず帰るかと思い、

入って来た急患用出入口に向かった。

 

それにしても、夜の病院は気味が悪い。

 

さっきまであの女の話をしていたからか?

と思って歩いていると、

 

ん?廊下の先に誰かがいる。

 

あれは・・・

 

『掃除オバさん』・・・?いや、

『中年女』か?

 

『中年女』らしき女が何かしている。

 

間違いない!『中年女』だ!

この先の出入口付近で何かしている!

 

俺はとっさに身を隠し、『中年女』の

様子を伺った。

 

どうやら俺には気付かず、

何かをしているようだ。

 

中腰の態勢で何かをしている。

 

俺は目を凝らし、

しばらく観察を続けた。

 

何か大きな袋をゴソゴソし、

もう一方に小分けしている?

 

尚も『中年女』はこちらに気付く様子も無く、

必死で何かしている。

 

ひょっとして?、病院内で収拾した

ゴミの分別をしているのか?

 

その時に後ろから、

「ちょっと、まだいたの?

私も遊びじゃないんだから、

いい加減にして!」

 

と、さっきの看護婦が。

 

(続く)呪う女 15/18へ

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