満面の笑顔で呟く女の子

大学時代に、

友人から聞いた話。

 

釣りが大好きだった友人は、

 

その日も朝から

釣りに出掛けていた。

 

場所は川の上流域で、

かなりの山奥である。

 

「車で行ったんだけど、

途中からは獣道すらなくてな。

 

仕方なく歩いたんだよ。

かなりの悪路だったな。

 

崖も越えたし、

 

途中に熊が木を引っ掻いた

痕もあったな。

 

で、

 

やっと釣れそうなポイントに

辿り着いてな。

 

早速、そこらへんの石を

ひっくり返して、

 

川虫を集めたのよ」

 

「餌ぐらい買えばいいのに」

 

「いや、現地で捕った餌は、

食い付きが違うんだよ。

 

何より、

捕るのも楽しいしな」

 

俺も現地で餌を

調達したことがあるが、

 

あの作業は、

 

虫が嫌いな人間にとって

地獄である。

 

それ以来、俺は

もっぱらイクラ派だ。

 

そんなわけで不本意ながら同意し、

話の続きを催促した。

 

「虫を確保して、

早速、釣り始めたんだ。

 

そしたら面白いぐらい釣れてな。

 

ものの三時間で、

十五~六匹は釣れたんだ。

 

でも、朝まずめが終われば

流石に途絶えるだろうな、

 

って思ってたのよ」

 

知ってる人も多いと思うが、

 

釣りは朝と夕方の「まずめ時」が

最も釣れる。

 

「けど、爆釣モードは昼を過ぎても

全く終わる気配がない。

 

生涯で最高の一時だったね。

 

時が経つのも忘れて、

夢中になったよ。

 

気付いたら辺りは薄暗くてな。

もう夕方になってたんだ。

 

身の危険を感じて、

帰り支度を始めたんだよ。

 

ふと、背後に気配を感じて

振り返ったら、

 

小さい女の子が

背を向けて立ってる。

 

少し近づいて、

 

「こんなとこで何してんだい?」

 

って聞いてみたんだよ。

 

振り向いた顔を見て、

ギョッとしたね。

 

顔がお婆さんだったんだよ。

 

しかも、顔が引き攣るぐらい

満面の笑顔だったんだ

 

俺もギョッとした。

 

「でも、病気か何かだと思って、

同じ質問を繰り返したんだ。

 

今度は丁寧語でな。

 

そしたら笑顔を崩さないまま、

『いつまで』って呟いたんだよ。

 

何回も。

 

キチ○イだったんかなあと思って、

軽く会釈して帰ろうとしたんだ。

 

そしたら、

 

急に婆さんの声が

合成音声みたいになって、

 

『いつまで生きる?』

 

って言ったんだよ。

 

背筋がゾクッとして、

 

こいつはこの世の人間じゃない、

と思ってな。

 

凄い勢いで下山したんだよ。

 

途中、婆さんの呟く声が、

何度も聞こえた。

 

薄暗い山奥で、だぜ?

発狂寸前だったよ。

 

あ~あ、

 

最高のポイントだったのに

もう行けねえなぁ・・・」

 

俺は自分の膝がガクガク

震えているのを感じた。

 

話の途中から、

 

友人は気持ち悪いほど

満面の笑顔だったのだ。

 

それからしばらくして、

友人は自殺した。

 

(終)

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