仲の良かった近所の子との記憶

空き地

 

小さい頃の思い出というのか、

夢だったかも知れない出来事の記憶。

 

まだ幼稚園生だった時、

近所で仲の良い子(A)がいた。

 

男の子だったのか女の子だったのか、

性別すら覚えていない。

 

ただ“仲良しが近所にいた”

という事だけは覚えている。

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ただの夢や妄想と思い切れない・・・

話は少し変わるが、

家の隣には大きな空き地があった。

 

空き地といっても更地というわけじゃない。

 

林というのか森というのか、

どこかジャングルのような雰囲気。

 

中央には高さ3メートルほどの

大きな岩があった。

 

ちょっと不思議だったのは、

 

乗用車が一台すっぽりと入るぐらいの

大きな檻(おり)がいくつかあったという事。

 

昔は小さな動物公園のような場所だったと、

後から聞いた覚えがある。

 

塀がやたら高かった事と、

 

入り口の門が校門のように大きく

頑丈だった事から、

 

どこか不気味な雰囲気があった。

 

近所の子供達にとっては

格好の遊び場になりそうなものだけれど、

 

蛇も結構出るという事で、

あまり人が入り込むような事もなかった。

 

そして俺とAの互いの家族は、

空き地に隣接している家に住んでいた。

 

自然と塀の前の道路で遊ぶ事になる。

 

たまに近所の年上の幼馴染に誘われて、

 

空き地の門の隙間から

空き地の中に入ったりもしたけれど、

 

特に何か起きた事はない。

 

一度だけその幼馴染が岩に登っている途中で

落っこちて騒ぎになりかけたけれど、

 

周囲は草が生え放題だったので大した怪我もなく、

親に叱られるだけで済んだ。

 

そんなある日、

その出来事が起こる。

 

俺とAはいつものように遊んでいた。

 

その日は白い墨のようなもので、

道路にいたずら書きをしていた。

 

と言っても、

 

何だか良く分からない棒人間だとか

怪獣だとか、

 

そんな他愛のない絵だ。

 

ただ、気が付くと夕方になっていた。

 

そんな時間じゃないはずなのに・・・

 

何故かその時は、

 

頭の中はただひたすら”帰らないと”

という考えで一杯だった。

 

そして、

Aに別れを告げようとした時だった。

 

突然、Aが空中に浮かび上がった。

 

俺は呆気に取られ、

完全に思考停止していたと思う。

 

怖さも不思議さも感じず、

ただ眺めていた。

 

そのままAは一言も発することなく、

塀に溶け込むように消えた。

 

上手く表現出来ないが、

 

立体映像のように何の抵抗も見せずに

Aは吸い込まれていった。

 

でも何故か、

その時は”帰らないと”という考えが強くて、

 

そのまま何も言わずに家に帰った俺は、

玄関先で気付いた。

 

まだ昼間のはずだって・・・

 

実際に我に返った時、

夕方ではなくて真昼間だった。

 

子供心になんだかよく分からないなあ

と思いつつも、

 

いつものように遊びに行こうとすると、

急に怖くなった。

 

何が怖かったのかはよく分からない。

 

ただその後は、

Aの家にも行かなくなった。

 

Aが遊びに来る事もなかった。

 

一年が過ぎ・・・

二年が過ぎ・・・

 

小学校に入る直前あたりで、

Aの家が引っ越した事を聞いた。

 

色々とおかしい。

 

なぜ挨拶の一つも無かったのか。

 

何の話題にもならないのか。

 

今になって冷静に考えてみると、

 

Aの存在自体が夢や妄想の類だったのだろう、

と思う事もある。

 

ちなみに今では塀の三面が取り壊されて

空き地も整地されおり、

 

二棟のアパートとその駐車場になっている。

 

ただ・・・

 

何故かAが吸い込まれた側の塀だけは、

今でも残っている。

 

その事実だけが心に引っ掛かり、

 

あの思い出が”ただの夢”や”妄想”だと

完全に思い切る事が出来ないでいる。

 

(終)

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