仕舞い忘れたボールが独りでに
これは、同業者から聞いた話。
道路工事をしていた時のこと。
土場として借りていた空き地のすぐ横に、小さなゲートボール場があった。
休日には老人たちで賑わうらしいが、平日は誰もおらず、静かなものだった。
そんなある日の夕暮れ、土場にいると隣からボールを打つ音が聞こえてくる。
目をやったが、競技場には誰の姿も見えない。
ただ、仕舞い忘れたボールが一つだけ、コロコロと転がっていた。
作業に戻ろうとすると、再び「カンッ」と叩く音がして、ボールが独りでに転がった。
出来るだけそちらを見ないようにして、土場を後にしたそうだ。
後日、そこの老人会でその話をしてみた。
「知ってるよ。ワザとね、球を一つだけ出しっ放しにしてるんだ」
にこやかに、そう言われた。
あそこで楽しんでいるのは、老人だけじゃないのかもしれない。
そんなことを考えたという。
(終)
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