従兄弟たちの家に泊まった夏夜の恐怖

田舎

 

従兄弟たちの家には二度と行かない。

 

去年の夏の頃の話。

 

俺は従兄弟に強く誘われて、

従兄弟たちの家に行った。

 

人の気配の無いこの山の奥には、

 

従兄弟たちの家の田んぼが

ずらりと並んでいた。

 

茨城県の山の奥深い所に住んでいる。

 

従兄弟たちとは昔から仲が良くて、

小さい頃はしょっちゅう一緒に遊んでいた。

 

従兄弟は四人いて、

二人は仕事を探しに東京に行っていた。

 

あとの二人は父親の跡継ぎで

農業をしていて、

 

確かに農業には最適だと思うほど

広い土地だったうえに、

 

夏とは思えないほど涼しく、

とても居心地の良い所だった。

 

そんな従兄弟たちの家に泊まっていた、

ある日の夜。

 

深夜に友達とメールをしていて、

そろそろ眠くなって布団で寝ようとした時、

 

変な音で「いいいいいいいぃ・・・」と、

 

山から吃驚するほど大きな

やまびこが聞こえた。

 

布団から飛び上がった。

 

有り得ない。

 

何せこんな夜中に、

 

ほとんど明かりが無い山に

入る奴はいない。

 

実際、今まで従兄弟たちの家に

何回も宿泊させてもらっているが、

 

こんなことは一度も無かった。

 

急いで従兄弟たちを起こしに。

 

が、既に起きていた。

 

従兄弟のうちの兄の方が

びっしり汗を掻きながら、

 

俺に言った。 

 

「まだ起きてたのか。

もう寝ろ」

 

かなり兄は焦っていたようだ。

 

顔に染み出ていた。

 

「何があったの? 今のは何だ?」

「お前は今すぐ寝ていろ!!」

 

あまりの顔の形相に、

 

俺もビビって部屋に戻るフリをして、

壁際に隠れていた。

 

すると弟の方が、

 

「どうすっぺ兄ちゃん!

○○(俺)も家にいんだぞ!」

 

「分からん・・・

とりあえずアレ持って来い」

 

弟は縁側から真っ暗な外に出て、

錫杖と30センチくらいの古い木箱から、

 

大量の古い紙切れと運動会の綱引きで

使うような縄を持ってきた。

 

※錫杖(しゃくじょう)

僧・修験者(しゅげんじゃ)が持ち歩く杖。杖の頭に鐶(かん)が掛けてあり、杖を突くと鳴る。

錫杖

(錫杖)

 

しかし、俺が覗いているのを

従兄弟にバレてしまい、兄に、

 

「お前は部屋に戻れ!

 

それと、いいか、

俺達は今から山に向かうから、

 

お前は家のすべての窓やドアに

鍵を掛けていろ。

 

一切開けてはダメだ。

 

外から足音がしたり気配がしたりしても、

一切窓を覗くんじゃない。

 

いいな?」

 

俺は半分恐怖と半分意味が分からない

といったような感じで、

 

首を傾げて頷いた。

 

そして従兄弟たちは真っ暗闇の中、

 

懐中電灯を持ってシャリシャリと

錫杖を鳴らし、

 

お経みたいなのを唱えながら

山に行ってしまった。

 

俺は大急ぎでトイレや台所、

居間の窓を閉め、

 

玄関の鍵をし、

部屋の鍵をし、

 

従兄弟たちが帰るのを待っていたんだ。

 

従兄弟たちの姿が見えなくなり、

 

窓のカーテンを閉めて、

恐怖に怯えながら部屋に篭った。

 

しばらくして急に風が強くなった。

 

家の玄関の窓が風で揺らされた。

 

すると家の周りから、

大量の足音が聞こえだした。

 

しかも、

何か呟いている。

 

「ショウヨオドリマワリタシ・・・」

 

その声は徐々に大きくなっていった。

 

もう、窓のすぐ側で言っている

様な感じだった。

 

破裂するぐらいに、

心臓の鼓動がさらに高まっていった。

 

その瞬間、

 

カーテンの隙間からその足音の正体が

分かってしまった。

 

かなり小柄で、

 

信じられないくらいガリガリにやせ細った

目が異常にデカイ少年だった。

 

その上、

その少年と目が合ってしまった。

 

俺は身体を硬直させた。

 

すると、

 

あのやまびこの時と同じように、

またあの異常な音・・・

 

「いいいぃいぃいぃいぃいぃ」

 

が聞こえ出した。

 

泣きながら目を瞑って、

 

「南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏・・・」

 

と呟いていた。

 

早く従兄弟たち帰って来てくれ!

と願いながら。

 

その緊迫の状態が20分ぐらい続いた頃、

シャリシャリと音が聞こえてきた。

 

その瞬間、

 

人生で初めて小便を垂れ流し、

涎を垂らして泣きながら気を失った。

 

※涎(よだれ)

 

起きて目を覚ますと、

従兄弟の部屋だった。

 

兄弟で何か話し合っていた。

 

しかし、俺が起きたのを見ると、

話を止めて兄の方が俺に謝ってきた。

 

「申し訳ねぇな、○○・・・

今回は運が悪かったんだ。

 

忘れとけ」

 

と俺に言った。

 

縁側には、

無数の小さな形をした足跡があった。

 

あれは何だったのかと尋ねたが、

 

二人とも「お前が知ること無い」

しか言わず、

 

結局は後日に家へ帰ることになった。

 

まだあの日から一年だが、

忘れられない日になってしまった。

 

いつも行っていた従兄弟たちの家にも、

 

もう行っていないし、

行きたくもない。

 

連絡も取っていない。

 

これらに関して少しでも情報が欲しい。

 

場所は『茨城県玉造り町』だ。

 

(終)

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