雨のような蛆が降る日は近い

蛆虫

 

中学2年の7月の初め、

 

近所に住んでいる親友Hの態度が

急に冷たくなった。

 

階段を上るHを支えようとしたら、

(Hは足が悪かった)

 

「触んな!」と叫ばれたり、

あからさまに無視されたり。

 

そのことが物凄くショックで、

学校へ行くのが嫌になっていた。

 

しかし、夏休みに入った直後、

Hから絵葉書が届いた。

 

この2週間ほど落ち込んでいた私にとって、

 

Hから連絡を取って来てくれただけでも

本当に嬉しかったが、

 

書いてあったのはたったの一行だった。

 

『うちにはもう近づかん方がいいで』

 

気になって仕方なかったが、

数日後にとんでもない事件が起きた。

 

同学年の女子が、

近所の神社で殺されていた。

 

(うじ)で真っ白だったらしく、

発見者は布袋か何かだと思ったらしい。

 

殺されていたのは、

 

Sという派手目で明るい感じの、

隣のクラスのリーダー格の子だった。

 

事件は迷宮入りすることもなく、

犯人もあっさり捕まって、

 

不謹慎だが皆ちょっと拍子抜けしていた。

 

犯人は援交常連の中年男で、

交渉決裂したのが原因だった。

 

でも、Hだけはずっとピリピリしていて、

やはり私には冷たいままだった。

 

夏休みも半ばの登校日に、

私は久しぶりにHと話すことができた。

 

以前の態度が嘘のように、

落ち着いた笑顔で話すH。

 

放課後に絵葉書のことを訊ねてみると、

こう話してくれた。

 

SはHが好きで、

以前からストーカー同然の行為をしていた。

 

Sの援交はHに貢ぐため。

 

アクセサリーや現金を渡してきて、

(語り主)と絶交しろと詰め寄られた。

 

絶交しないと私を殺しちゃうかも、

とまで言ってきた。

 

Sが死んでしまったので、

可哀想だけどちょっと安心した。

 

「心配かけたくなかったんや」

 

そう言って笑ったHを見て、

少し泣きかけた。

 

それと同時に、

Sが本当に憎らしく思えた。

 

ただ・・・

私はSの性格を忘れていた。

 

嫉妬深くて拘束欲の強い、

わがままなクラスのリーダー格。

 

その夜、Hと電話をしていた最中、

 

急に「ヒッ、ア、」と息が詰まるような

声を残して電話が切れた。

 

もう一度かけ直しても出ない。

 

心配になった私は、

すぐにHの様子を見に行った。

 

玄関が開けっ放しになっているのが

遠目からでも分かる。

 

門を開け、

玄関までの石畳に踏み出した瞬間、

 

何か固いものが当たった。

 

同時に、プチップチッ・・・という、

変な感触が足に伝わってくる。

 

下に目をやると、

 

大量の蛆にまみれた彼女の補助杖が

転がっていた。

 

まぶたがひっくり返る様な感じがした。

 

Hは多分、もう戻って来ない。

 

昼頃にお母さんの通報で駆けつけた

警官たちがうろうろしていて、

 

私も色々と訊かれたものの、

ほとんど答えることは出来なかった。

 

彼女の部屋はかなり荒れていて、

床には潰れた蛆で水溜りが出来ていた。

 

その中を、生きている蛆が泳ぐように

(うごめ)いている様を見て、

 

もどしかけた若い警官もいたらしい。

 

私はというと、打った頭は痛いし、

 

髪の毛に蛆やら嘔吐物やらが

こびり付いてしまって、

 

とんでもない状態だった。

 

最近、学校の机の上や食卓や私室、

どこでも一匹は蛆を見る。

 

私の上にも雨のような蛆が降るのは、

もうそんなに先じゃないと思う。

 

(終)

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