ただ一人、生き延びた男 1/2

ドア

 

これは本当にあった事件で、

 

ある精神病院に隔離された、

その事件の生存者の話です。

 

なので、細部については本当なのか

狂人の戯言なのかは分かりません。

 

しかし、

事件そのものは実際に起こっています。

 

『大雪山ロッジ殺人事件』

 

北海道新聞の過去記事を探せば

見つかるはずです。

 

「その男は確かにその事件の生き残りで

あるのも間違いない」

 

ということを最初に言っておきます。

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ドアの向こうから聞こえる声は、実は・・・

事の発端は、

主人公である事件の生き残りの男が、

 

札幌市中央区の中島公園にある古本屋に

フラリと入ったことから始まった。

 

余談だが、

残念ながらその古本屋は現在はない。

 

何気なく男が手に取った本の隙間から、

大学ノートが落ちてきた。

 

何か書いてあったので読んでみると・・・

 

奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる

奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる

奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる

 

もう自分で命を断つしかないのか・・・

 

助けて助けて助けて助けて助けて助けて

助けて助けて助けて助けて助けて助けて

助けて助けて助けて助けて助けて助けて

 

という物騒な内容が、

最初から最後までびっしりと書いてあった。

 

気味が悪くなった男は店主に、

 

「こんなものがあったんだけど、

なんですか?これ?」

 

と訊いてみた。

 

店主は「あっ!」と声をあげて、

 

「なんでもない。

これは売り物じゃないんだ」

 

と言ってノートをむしり取った。

 

その日は仕方なく帰った男だったが、

 

あのノートに書かれていた内容が

頭から離れない。

 

奴とは一体誰なのだろうか?

 

ノートを書いた人は、

今も生きているのだろうか?

 

男は次の日も気になって仕方なく、

 

気が付いたらまたその古本屋に

来てしまっていた。

 

そして再び店主に問いただしてみたが、

教えてくれない。

 

それでもさらに気になって、

男は一週間ずっと通い続けた。

 

さすがにうんざりした店主は、

ついに根負けして口を開いた。

 

「あんた、そんなにこのノートが

何なのか知りたいのかい?

 

だったら、

 

8月23日に大雪山の五合目にある

ロッジに泊まってみるといい・・・

 

ただし、

後悔しても私は知らないよ」

 

男はここまで聞いてしまったら、

もう止まらなかった。

 

友達4人を誘って計5人で、

 

その年の8月23日に大雪山の

ロッジを目指して登山を開始した。

 

登山したメンバーは、

女2人と男3人。

 

登山そのものには、

不可解な事は何も起こらなかった。

 

順調にロッジまで到着したそうだ。

 

ロッジに到着すると、

 

女2人は「お茶の用意をしてくるね」

と言ってすぐに準備を始めた。

 

男達は2階に上り、

寝室に荷物を運んで整理を始めた。

 

登山を提案した男は、

窓辺に座って景色を眺めていたそうだ。

 

5分くらいした後、

寝室のドアの向こうから声がした。

 

「ねえ、開けて。

お茶持ってきたよ」

 

階下でお茶の準備をしていた女の声だった。

 

手にお盆を持っているから、

自分でドアを開けれないらしい。

 

ドアの近くにいた男がドアを開けた。

 

その瞬間だった。

 

『ゴトッ』

 

突然その男の首が落ちた。

 

しかし、何かがおかしい。

 

頭部が長髪の女の顔なのだ。

 

いや、

正確には頭部が女なのではなく、

 

首が切り落とされた男の体の上に、

女の生首が乗っているようなのだ。

 

その男の首の付け根からは、

絶えず血が溢れてだしていた。

 

手には何かを持っているようで、

 

生首女の目は恨めしそうに

ずっとこちらを見ていた。

 

ソイツは有無も言わさず、

 

荷物を整理する為に部屋の中心にいた

別の友人の首も切り落とした。

 

同時に、窓際に座っていた男は

無我夢中で窓から飛び降りた。

 

そして命からがら逃げ出して、

 

登山道を偶然通りかかった登山者に

助けを求めたそうだ。

 

「な・・・な、仲間が何者かに

首を切り落とされて殺された!」

 

この信じ難い話に

半信半疑だった登山者だったが、

 

急いでロッジに到着してみると、

凄まじい光景に腰を抜かしてしまった。

 

入口を開けて一階に入ってみると、

女が二人とも首を切り落とされて死んでいた。

 

「これは大変だ・・・!」

 

その後すぐに警察が出動した。

 

生き延びた男は、

 

窓から飛び降りた時に

足を骨折していたらしく、

 

病院へ搬送された。

 

警察が現場検証をしたところによると、

 

4人の遺体の切断された切り口が

あまりにも鋭く斬られていた為、

 

出血もほとんどなかったそうだ。

 

警察は、どんな凶器を使用したのか

全く分からないと首を捻るばかりだった。

 

そして不思議な事に、

犠牲者達の首は一つも見つからなかった。

 

結局、事件は迷宮入りしてしまった。

 

病院では、ベッドに横たわる

怯えた姿の逃げ延びた男がいた。

 

そしてその部屋で、

看護師が男の点滴を替えている時だった。

 

『コンコン』

 

(・・・あれ?・・・誰だろう?)

 

「はーい、どうぞ」

 

(続く)ただ一人、生き延びた男 2/2

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