ただ一人、生き延びた男 2/2

ドア

 

しかし、ドアは開かなかった。

 

その代わりに声が聞こえた。

 

「この部屋に入院している者の

母でございます。

 

実は荷物を持っていまして・・・

 

すいません、

開けて頂けませんか?」

 

男の母親の声だ。

 

だが、母親は単身赴任の父を訪ねて

東京にいるはずだった。

 

ここは北海道の旭川だ。

 

こんなに早く、

母が到着できるのだろうか?

 

そもそも誰が連絡したのだろうか?

 

この時、

男はその不自然さに気づいた。

 

「はーい、今開けますね」

 

看護師が返事をすると、

 

(ダメだ!開けてはダメだ!)

男は声をあげようとした瞬間・・・

 

『ゴトッ』

 

男が気づいた事とは、

 

どうやらソイツは、

自分では決してドアを開けないという事。

 

ソイツは、どんな人の声も

真似できるらしいという事。

 

ソイツは、あらゆる口実で

ドアを開けさせようとする事。

 

そして最後にソイツは、

 

自分の存在を知った人間を殺すまで

追い続けるという事。

 

男はその時、

 

ベッドを仕切るカーテンの中で

気絶してしまったので助かったようだった。

 

しかしそれ以来、

 

男はドアのある場所へは近付く事も

出来なくなってしまったらしい。

 

現在もその男は精神病院の鉄格子の中で、

大学ノートにこう書き続けているそうだ。

 

奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる

奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる

奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる奴がくる

 

あの古本屋で見つけた、

ノートの持ち主と同じように・・・

 

この話を聞いてしまった時、

 

私の所にもソイツが来るのではないかと

心配になりました。

 

しかし、

 

いくらなんでもそれはないだろう

と思っていましたが・・・

 

この話を友人二人にしていた時、

 

話が終わった午前5時に突然、

家のチャイムが鳴って驚きました。

 

恐る恐る玄関に行くと、

 

「おい、俺だよ俺。祐司だよ!

開けてくれよ!」

 

と、東京に就職した友人の声がします。

 

さすがに皆焦って、

 

そっと鍵を開けて「鍵開いてるよ!」

と言いました。

 

すると、

 

「お土産たくさん抱えてて・・・

開けてくれよ!なあ!開けてくれよ!」

 

それを聞いて全員怯えてしまったが、

友人の一人が機転を利かせて裏口を開ける。

 

そして、

 

「祐司、なんかドア壊れたみたい。

裏口開いてるから入っておいで」

 

と言いました。

 

今考えると、

 

もし入って来たらどうするんだ!

という事ですが、

 

その時は無我夢中でした。

 

朝まで友人たちと布団を被って

震えていました。

 

そして10時頃、

祐司に電話してみると、

 

「えっ?今?

東京にいるけど、なんで?」

 

それを聞いて、

私達はゾッとしてしまいました。

 

今でも半信半疑ですが、

 

もう誰かの為にドアを開ける事は

絶対にしないようにしています。

 

あなたもドアの向こうの声には、

十分に気をつけてください。

 

そのドアを開けた瞬間に・・・

 

(終)

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