なぜ呪術を極めようとするのか

占い

 

先生の所で占いの勉強を始めてから暫らくした頃だと思う。

 

占いの勉強と言っても、脱線して雑談することが多かった。

 

その話の流れで僕は、学校にムカつく奴がいる、みたいなことを口にした。

 

誰だって学校や会社に腹の立つ奴はいるよね。

 

そんなことを愚痴っていた。

 

僕は冗談半分で、先生は呪いの掛け方を知ってるの?、と訊いた。

 

さてね、と先生がはぐらかした覚えがある。

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呪術が発達する国というのは・・・

出会ってから今年で7年目になる。

 

その間、今まで先生は人を呪うなとは一言も戒(いまし)めなかった。

 

その代わりに、人を呪い殺したらどうなるか、を教えてくれた。

 

『人を呪わば穴二つ』のことわざは決して偽りではない、と。

 

※人を呪わば穴二つ

他人を呪って殺そうとすれば、自分もその報いで殺されることになるので、墓穴が二つ必要になる。人を陥れようとすれば自分にも悪いことが起こるというたとえ。

 

他者を呪って害した場合、どうなるか考えた上で決めなさい、と。

 

じゃあ、俺はなぜ呪いが、呪術なんてものが存在するのか、その時に訊いた。

 

※呪術(じゅじゅつ)

超自然的・神秘的なものの力を借りて、望む事柄を起こさせること。まじない・魔法など。

 

人を不幸にし、自分も不幸にしてしまう呪術なんて、無い方が良いに決まっている。

 

けれども実際は、それを後世に伝えているじゃないか、と。

 

すると、それは違うよ、と先生は言った。

 

例えば、術式というのは陰陽五行説が深く関わってくる、と。

 

陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)

中国古代の宇宙観,世界観。陰陽説と五行説が結合したもの。

 

これらを勉強していると、自然に呪いの仕組みも分かってくるそうだ。

 

君だって、勉強していればいつかは分かってくる、と。

 

呪術に精通している道士の方々も、望んでそれを勉強したわけじゃない。

 

道士だって全員が聖人君子じゃないし、中には使う人もいるけれど。

 

※聖人君子(せいじんくんし)

立派な人徳やすぐれた知識・教養を身につけた理想的な人物。

 

そして道士も含めて、占術、風水、易学などを極めようとしてる人達は大勢いる。

 

そんな人達もまた、呪術の仕組みに当然気付いているだろう。

 

大抵の人は極めようとする道に専念して、呪術に縁が無い人生だけれどね、と先生は笑った。

 

それなら、呪いを極めようとする人はいないの?、と僕は訊いた。

 

先生は難しい表情を浮かべたと思う。

 

そして、いない事は無いね、と答えた。

 

但し、この道の学問は、実践をして始めて身につく。

 

占術は実際に人を見て鑑定し、風水も実際に地形を見て鑑定する、といった感じに。

 

そうやって自分のスキルを高めていく。

 

だから、呪術もまた人を呪って初めて身につくんだよ、と。

 

しかし、呪術は冥律に叛(そむ)くことに他ならない。

 

※冥律(めいりつ)

冥界(あの世)の法律。

 

人を呪えば呪うほど、術者自身の寿命が削られていく、と思ってもらっていい。

 

何かの道を極めようとすれば、多くの時間が必要だ。

 

だから呪術の道は他と違って極めるのが非常に困難だね、と。

 

そのような事情により、呪術を極めんとする人は短命だ。

 

普通の人は決して手を出さない。

 

しかしだね、と先生は重たくなった口を開いてくれた。

 

若い頃、とある国で呪術を極めた者が2人いたという噂を耳にした。

 

そこは、とても呪術が盛んな国でね。

 

貧しい人達が身を立てるため、呪術に走ってしまうんだ、と。

 

それこそ、大勢の術者が呪術に身を捧げ、志半ばで潰(つい)えていくのに。

 

そして先生は言った。

 

今まで自分は占術を極めた、いわゆる達人と呼ばれる方々とお会いしてきた。

 

そのような方々は、一種の悟りを開いており、普通の人間とは違って見えたね、と。

 

僕も先生のこと、普通の人間と思えないけれど・・・。

 

じゃあ、呪術を極めた人はどんな存在になると思う?、と訊いてきた。

 

呪術に長けているというレベルではない。

 

呪術を極め、人間としての一線を越えてしまった者が2人いたんだ、と。

 

これも日本では無い国で起こった本当の話。

 

その国の農村を訪れた先生は、ある老人から話を聞いた。

 

自分が子供の頃、同年代の子供達が血を吸われて死んでいる事件が起こった。

 

朝になって親が気付いたら、子供が干乾びて死んでいたという。

 

その翌日にも一人、また次の日にも、と事件は立て続けに起こった。

 

家族達は泣き叫ぶが、誰が犯人なのか等は全く見当もつかない。

 

すると年寄りの一人が、村の周りの山や森をくまなく探索するよう命じた。

 

これは呪術の一種であり、術者は近くの暗い場所に潜んでいる、と。

 

そうして山狩りが始まり、程なくして洞窟に男が一人隠れているのが見つかった。

 

男は洞窟の中で奇妙な儀式を行っていたという。

 

子供を殺したのはこの男に違いない、と村人達から殴り殺された。

 

年寄りが言うには、この男は呪術を極める最終段階に入っていたと。

 

この呪術大成の為に、49日間を暗闇にて毎晩子供の生き血を吸う呪術を続けなければならない。

 

しかし途中で見つかってしまい、結局は怒りを買った人々から復讐されて終わる。

 

では、この49日間の呪術を成し遂げたらどうなるか?

 

ほとんどの者達は失敗したが、最低でも2人は成功したと記録には残されているそうだ。

 

ここまで来た術者は、もう人間とは呼べない存在だね、と先生は教えてくれた。

 

何なの?と訊く僕に対し、魔人だね、と答えてくれた。

 

魔人なんて言葉、冗談のように聞こえるが、先生は大真面目だった。

 

人間以上の力を持つと同時に、寿命が無くなってしまうんじゃないかな、と。

 

その身体は、刃や銃弾を通さず不死になってしまう、と。

 

信じられないけれど、道教には『タオチャン』という失伝した術式がある。

 

その術式だと、身体を刃で切りつけられても無傷、軽症で済むと。

 

呪術を極めた魔人は、この系統の術式を完璧に習得しており、外的な攻撃を受け付けない、と。

 

この場合は、道教のそれを遥かに越える術式なんだろう。

 

そして、いとも容易(たやす)く人を呪い殺せる、と。

 

仮に、こんな魔人と敵対してしまったら、どうにもならない。

 

術式に長けた台湾の道士の方々でさえ難しいだろうね、と。

 

そしてこの話の締めに、先生は僕に問いかけた。

 

何故そこまでして、そんな人達は呪術を極めようとするか分かるかい?、と。

 

占術や呪術は、歴史上の人達を例に見ると、大きな挫折を経験して極める場合が多い。

 

例えば日本には昔、有名な易学者がいて、その人も投獄されたりした。

 

だからこそ、悟りを開いたような易を立てることが出来たかも知れない、と。

 

何かしらに対する大きな『絶望』と『挫折』。

 

それを経験した人は、才能を越えて術式を極めてしまう場合がある、と。

 

だから、この呪術を極めて魔人となってしまった人も、そうするだけの理由、つまりは、そんな人生を歩んできたのではないか、と。

 

人間をやめても巨大な力が欲しい、という過酷な人生だね。

 

また、国によっては、日本人では想像もつかない悲惨な生活があるから、と言った。

 

どれだけ懸命に働いても、勉強しても、報われない生活。

 

その日に食べる物さえこと欠く貧困。

 

そこまで追い込まれた人達の選択肢は本当に少ない。

 

悲惨な環境もまた、魔人を生み出す理由の一つだね。

 

呪術が発達する国というのは、その国情に問題があるんじゃないかな、と。

 

そして、自分は平凡な日本人で本当に良かった、と先生は言っていた。

 

(終)

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