オカルト版の某スレにて

2ヶ月前、

勤めていた零細企業が倒産し、

おかげで俺は、

無職の身になっちまった。

 

俺にはロクな学歴がなく、

マジで再就職がやばい・・・。

 

職安で紹介される会社に応募しても、

ほとんど相手にしてもらえない。

 

おまけに金もないので、

ボロいアパートに独りで引き篭りだ。

 

家族がないのが、

せめてもの救いだ。

 

それで、引き篭ってみて

分かったんだけど、

俺の隣室の奴も

引き篭りだったんだ。

 

昼間に時々、青白い細身の青年と

廊下ですれ違うんだが、

これが隣室の奴だった。

 

だけど、

こっちから挨拶しても、

何か口ごもりながら頷くぐらいで、

どうやら本格的な

引き篭りみたいだった。

 

それで困ったことに、

こいつの部屋から毎日決まって

午前10時と午後3時に、

奇声というか呪術の儀式みたいな

不気味な声が聞こえてくるんだ。

 

おまけに、

猫か何か動物の「ギャア」って

悲鳴が聞こえたり、

小さな鐘を叩くような金属音が、

チーン、チーン、

と聞こえてきたりする。

 

このあいだＴＶのニュースで、

俺のアパートの近所で

猫の頭が大量に

U字溝に捨てられていた、

と報道されたんだけど、

俺は絶対、

隣の奴の仕業だと思ってる。

 

俺はといえば、

外出する金はないし、

暇だけはウンザリするほどあるので、

お決まりの2ちゃんねらー街道だ。

 

気味悪い隣の「儀式」のことも、

ある夜、オカルト板の某スレに

書き込んで聞いてみた。

 

そしたら、

それは死霊を呼び出すための

●●●という呪法の準備儀式だと、

教えてくれる人がいた。

 

何でも、

それは死霊を呼び出して、

呪殺のための使い魔として

使役する呪法だそうだ。

 

俺は面白半分で、

色々細かいことを聞いてみた。

 

ところが、

そんなレスのやり取りの間に一人、

変なのが割り込んできた。

 

その人も、

その呪法にやたら詳しくて、

先に色々教えてくれた人の説明に、

一々細かいイチャモンをつけ始めた。

 

「そこはそんなやり方じゃねえぞ」

 

「それは最強の方法じゃない。

最強の方法は別にある」

 

挙句の果てに、

 

「オマエ、実際にこの呪法を

使ったことないのバレバレ」

 

「所詮、本で読んだだけの知識だな」

 

俺は、その感に触る挑発的なレスに

ちょっと切れて、

 

「本気で実践してるオマエは基地外」

 

「オマエは引き篭りで、

呪術ヲタの変態ニート」

 

などなど書き込んでやった。

 

そしたら、

そいつも反論してきて、 

「間違った内容を正す事のどこが悪い」

 

「その呪法のバリエーションの中で

一番強力なのは、自殺して

自分の霊で直接相手を襲うやり方」 

などなどと。

 

俺は更にムカついて 、

「だったら、テメーが死んで

俺を呪殺してみろ！不細工キモヲタ野郎」

と罵倒してやった。

 

そんな風にどんどんエスカレートし、

ムチャクチャなバトルになっていった。

 

最後にそいつは、

「最強の呪法でオマエを殺す！

俺の死霊で必ずオマエを殺してやる」

などと書き込んできた。

 

それで俺が、

「ヨーシ！死んでくれ、絶対になっ」

と返したら、

もうそれからレスがなかった。

 

ザマーみろ、逃亡しやがった。

 

もっとも、バトルに勝利したとはいえ、

俺はおもいきり不愉快だった。

 

おまけに隣の部屋からは、

また不気味なうめき声みたいなのが

聞こえ始めて、

もう気分は最悪だった。

 

壁を蹴飛ばしてやろうかと思ったが、

我慢してその日は寝た。

 

翌日、下の階の住人が、

天上から血が垂れてきたって騒いで、

警察は来るわ、救急車は来るわ、の

大騒ぎになった。

 

俺の隣室の男が、

手首やら首やらあちこち切り刻み、

さらに、自分の舌まで

噛み切って死んでたそうだ。

 

俺も警官から事情聴取を受けたので、

昨日の夜、うめき声みたいなものが

聞こえた事を話した。

 

どうも、その時に

手首とか切ってたらしい。

 

その夜は、

隣の自殺の事を考えちまって、

正直、電気消して

寝るのが怖かったんだけど、

いつまでも起きてるわけにもいかないので、

無理して蛍光灯の紐引っ張って寝たよ。

 

でも、やっぱり怖くて、

なかなか寝つけなかったんだ。

 

そうしたら、どこからか

ブツブツいう声が聞こえてきて、

チーン、チーンという

例の奇妙なメロディの鐘の音も、

かすかに聞こえてきた。

 

冗談じゃねーよ。

 

飛び起きて蛍光灯を点けようと、

闇の中をぶら下がっている

紐を手探りしたら、何かを掴んだ。

 

髪の毛みたいだ。

 

えっ？と思って、

両手を伸ばして手探りすると、

闇の中にぶら下がっている

逆さまの人間の頭みたいなものを

両手で掴んじまった。

 

ええっ？

俺が声をあげそうになった瞬間、

誰かの手が俺の喉首を、

もの凄い力でガッと絞めてきた。

 

その手はすさまじい力で、

俺の喉首を絞めあげてくる。

 

俺は絶叫しながら必死にもがいたが、

鼻血が出てくるのを感じ、

意識が遠くなりかけた。

 

その時、部屋のドアを

ドンドン叩く音が聞こえた。

 

大家が俺の名前を呼んでいる。

それだけ聞いて、俺は失神した。

 

気がついたら

部屋の蛍光灯が点いていて、

大家が心配そうに俺を見つめていた。

 

俺は、布団の上に黄色い小便漏らして、

ひっくり返っていた。

 

自殺騒ぎで住人の様子が気になった大家が、

夜中にアパートを見回ってたところ、

 

俺の部屋から、

うめき声が聞こえたので、

ドアを叩き、最後は

マスター鍵で飛び込んできたとの事だった。

 

こんな騒ぎが続いたので、

住人はみんな引っ越してしまった。

 

呪殺のご指名を食らった、

一番恐い立場の俺だけが、

無人になったこのボロアパートに

今も独りで住み続けている。

 

なにしろ無職なもんで、

引越し資金がないんだよ。

 

ビンボーは嫌だよな。

早く俺を就職させてくれ。

 

（終）