水辺で取り憑かれた女の霊

私が大学生だった頃、

毎日、連れと遊びまわっていた。

 

グループの中に、

非常に霊感の強いYという

男がいました。

 

みんなで飲み会をしているときでも、

「おい、あそこに女の霊がいるぜ」とか、

 

車で走っているときに、

「このトンネルの先に墓地があるぜ。

かなり霊が寄ってきてる」などと、

 

「ネタじゃねーの!?」

と思わせることを言う奴でした。

 

特に霊感も無い私は、

興味半分でよくそいつに

「体験談」や「今見えている霊」

を聞いていました。

 

そんなある日のことです。

 

長い大学の夏休みも終わり、

久しぶりに顔を合わせたYが

少し怪訝な顔をしながら

私に、こう聞くのです。

 

「お前、夏の間に

水辺に行ってないか?・・・」と。

 

当時、ブラックバス釣りに

ハマっていた私は、

キャンプも兼ねてS県のB湖に

何度か行っており、

その事を告げると、

 

「やっぱりな。

お前、持って帰ってきてるよ。

溺死した女の霊。

白いワンピース着てて、

長い髪が濡れて

べったり張り付いてるから、

多分水辺で亡くなった方だと

思ったんだけどな・・・」

 

と、私に事もなげに言うのです。

 

驚き慌てた私は、

「マジで?うそ?どうにかしろよ!」

と、怖さもあって

やや切れ気味にYに言いました。

 

Yは落ち着いた様子で、

「大丈夫。

そんなにキツイ霊じゃないから。

ただ、他のを呼んだりすると

やばいからなー」

と言い、

 

私に「これ付けとけ」と、

水晶のブレスレットを渡しました。

 

私は素直に付け、

「これで大丈夫なんだろうな?」

と聞くと、

「まあ、2~3日だろうな」

と答えました。

 

その日から大学へ行くたびに、

「どうだ?まだいるか?」

と、Yに聞くこと5日目。

 

「ああ、いなくなってるわ」と、

こともなげに答えるYに対して

大喜びの私。

 

「お祝い、お祝い」と、

私のおごりで飲みに行きました。

 

その席でYは私に、

「一度でも霊が憑くと

癖になることがあるんだぜ」

 

などと私を脅すので、

私はYにお願いして

水晶のブレスをお守りとして

譲り受けました。

 

そのことがあってから4年後、

Yは投身自殺をして亡くなりました。

 

現場、自宅ともに

遺書のたぐいは何も無く、

家族や同僚ともに、

Yが思い詰めていた様子も無く、

理由は全く分からないそうでした。

 

「お守りが形見になったな」

と思いながら、

大学時代のことを考えながら

家路に着きました。

 

そして6年後。

 

すっかりYのことや、

霊が取り付いたことも

忘れていた私は・・・。

 

同僚と後輩の強い誘いもあって、

10年ぶりにブラックバス釣りに

行く事になりました。

 

行き先は、S県B湖。

 

久々とはいえ、

かなりの大物が釣れ、

後輩が「Nさん(俺)、記念写真!」と、

大物を自慢げに持つ私を、

使い捨てカメラで撮影しました。

 

久しぶりの釣りで大物を手にした私は、

ご機嫌で家に帰り、

妻にあれこれ話した後、

激しい疲労感からか

落ちるように眠りに就きました。

 

次の朝、目を覚ました私は、

「何か変な夢を見たなあ」

という記憶と、

抜け切らない疲労感を覚えたまま

職場へと向かいました。

 

すると、B湖で私の写真を撮った後輩が、

血相を変え、近づいてくるのです。

 

「Nさん、昨日の写真を現像したんですけど、

やばいんですよ!」

 

「何がやばいんだよ?見せてみろよ」

と私が手を出すと、後輩は震える手で

写真の束を渡したのです。

 

やや陽射しがきつかったので、

逆光でうまく撮れていない写真が

結構ありました。

 

ですが、問題の一枚を見た瞬間、

私はあまりの恐ろしさに

震えていたと思います。

 

ボートの上に座って

魚を右手で持ち、

 

ボートの縁を握っている

私の左手、

 

その手首が

湖から伸びた青白い手に

握られているのです。

 

更に2枚目には、

青白い手と濡れた髪が

張り付く頭が写っていたのです。

 

私はその瞬間、

大学時代の事件を思い出して

「水晶のブレスを・・・」

と考えたときに、

今朝の変な夢を思い出しました。

 

夢の中で男が、

「また近づいただろう」

「また近づいただろう」

と繰り返していて、

だんだん遠ざかっていく

夢だったのです。

 

その男はYだったのです。

 

なんともいえない

寒気を感じた私は早退し、

家で机の引き出しから

水晶のブレスを取り出し、

腕に付けたのです。

 

恐怖を感じながら過ごすうちに、

妻が仕事から戻ってきました。

 

どうやら体調が悪いらしく、

「頭が重いし、寒気がする」と言い、

早々に床に就きました。

 

何とか寝ようと思い、

強めの酒をガブガブ飲んで酔っ払い、

ベッドでうとうとして、

また夢を見ていました。

 

「お前じゃない」

「お前じゃない」

 

って、

Yが言っているのです。

 

ふと目を覚まして、

「お前じゃないってどういうことだ」

と考えていると、

妻が恐ろしい声でうなり始めたのです。

 

明らか何かに怯えている様子

だったので、

「おい起きろ!起きろってば!!」

と必死で妻を起こしました。

 

目を覚ました妻が言ったことは、

私を恐怖で凍らせました。

 

「全身びしょ濡れの女が

私を引っ張るのよ!

いくらもがいても放さなくて!」

 

そう言いながら、

怯えているのです。

 

その女性の霊は、私に取り憑いた後、

妻に憑いていたのです。

 

私は慌てて水晶のブレスを

妻の腕に付け替えました。

 

その瞬間、

なんと水晶のブレスが

弾け飛んだのです。

 

妻と二人で怯えつつも、

水晶を拾い集めました。

 

水晶のブレスはワイヤーが切れて、

その場に落ちたとかではなく、

約3メートル四方に

飛び散っていたのです。

 

怯えた妻を抱き抱えながら、

二人で震えていたのですが、

そのうち私は寝てしまいました。

 

そして、また夢を見ました。

 

夢の中でYは、

「身代わりだよ」

「身代わりだよ」

と繰り返していました。

 

水晶のブレスが妻の代わりに

霊の怨念を受けたのでしょうか。

 

その後、水晶を宝石屋に持って行き

ブレスにしてもらいました。

 

今でも私の左手首に

常に付けています。

 

私は二度と、

水辺に近づかないことを誓いました。

 

(終)

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