リゾートバイト(本編)3/14

とりあえず俺一人行くことになったが、

なにか非常事態が起きた場合は、

絶対に(俺を置いて)逃げたりせず、

真っ先に教えてくれっていう話になったんだ。

 

ただし、何事もないときは、

急に大声を出したりするなと。

 

もしそうしてしまったときは、

命の保障はできないとも伝えた。

俺のね。

 

で、ソロソロと階段を上りだす俺。

 

階段の中は、外からの光が差し込み、

薄暗い感じだった。

 

慎重に一段ずつ階段を上り始めたが、

途中から「パキっ・・・パキっ」と、

音がするようになった。

 

何事かと思い、怖くなって後ろを振り返り、

二人を確認する。

 

二人は音に気づいていないのか、

じっとこちらを見て親指を立てる。

 

『異常なし』の意味を込めて。

 

俺は微かに頷き、

再度2階に向き直る。

 

古い家によくある、

床の鳴る現象だと思い込んだ。

 

下の入り口からの光が

あまり届かないところまで上ると、

好奇心と恐怖心の均衡が怪しくなってきて、

今にも逃げ帰りたい気分になった。

 

暗闇で目を凝らすと、

突き当たりのドアの前に何かが立っている・・・

かもしれないとか。

 

そういう『かもしれない思考』が

本領を発揮しだした。

 

「パキパキパキっ・・」

 

この音も段々激しくなり、どうも自分が

何かを踏んでいる感触があった。

 

虫か?と思った。

背筋がゾクゾクした。

 

でも何かが動いている様子はなく、

暗くて確認もできなかった。

 

何度振り返ったかわからないが、

途中から下の二人の姿が逆光のせいか、

薄暗い影に見えるようになった。

 

ただ親指は、しっかり立てていてくれた。

 

そして、とうとう突き当たりに差し掛かったとき、

強烈な異臭が俺の鼻を突いた。

 

俺はBとまったく同じ反応をした。

 

「うっ」

 

異様に臭い。

 

生ゴミと下水の匂いが

入り混じったような感じだった。

 

なんだ?なんだなんだなんだ?

そう思って、辺りを見回す。

 

その時、俺の目に飛び込んできたのは、

突き当たり踊り場の角に、

大量に積み重ねられた飯だった。

 

まさにそれが異臭の元となっていて、

何故気づかなかったのかってくらいに

蝿が飛びかっていた。

 

そして俺は半狂乱の中、

もうひとつあることを発見してしまう。

 

2階の突き当たりのドアの淵には、

ベニヤ板みたいなのが

無数の釘で打ち付けられていて、

その上から

大量のお札が貼られていたんだ。

 

さらに、打ち付けた釘に、

なんか細長いロープが巻きつけられてて、

くもの巣みたいになってた。

 

俺、正直お札を見たのは初めてだった。

 

だから、あれがお札だったと

言い切れる自信もないんだが、

大量のステッカーでもないだろうと思うんだ。

 

明らかに、何か閉じ込めてますっていう

雰囲気全開だった。

 

俺はそこで初めて、自分のしたことは

間違いだったんだと思った。

 

帰ろう。そう思って、

踵を返して行こうとしたとき、

 

突然背後から、

「ガリガリガリガリガリガリガリガリ

ガリガリガリガリガリガリガリ」

という音がしたんだ。

 

ドアの向こう側で、

何か引っかいているような音だった。

 

そしてその後に、「ひゅー・・ひゅっひゅー」と、

不規則な呼吸音が聞こえてきた。

 

このときは、本当に心臓が止まるかと思った。

 

そこに誰かいるの?

誰?誰なの?

 

あの時の俺は、ホラー映画の脇役の演技を

遥かに逸脱していたんじゃないかと思う。

 

そのまま後ろを見ずに行けばいいんだけど、

あれって実際出来ないぞ。

 

そのまま行く勇気もなければ、

振り返る勇気もないんだ。

 

そこに立ちすくむしか出来なかった。

 

眼球だけがキョロキョロ動いて、

冷や汗で背中はビッショリだった。

 

その間も、

「ガリガリガリガリガリガリ」

「ひゅー・・ひゅっひゅー」

って音は続き、

 

緊張で硬くなった俺の脚を、

どうにか動かそうと必死になった。

 

すると、背後から聞こえていた音が

一瞬止んで、シーンっとなったんだ。

 

ほんとに一瞬だった。

瞬きする間もなかったくらい。

 

すぐに「バンっ!」って聞こえて、

「ガリガリガリガリガリガリ」って始まった。

 

信じられなかったんだけど、

それは俺の頭の真上、

天井裏から聞こえてきたんだ。

 

さっきまで、ドアの向こう側で鳴っていたはず

なのに、ソレが一瞬で頭上に移動したんだ。

 

足がブルブル震えだして、

もう、どうにも出来ないと思った。

 

心の中で、助けてって何度も叫んだ。

そんな中、本当にこれも一瞬なんだけど、

視界の片隅に動くものが見えた。

 

あのときの俺は、動くものすべてが恐怖で、

見ようか見まいか、かなり躊躇したんだが、

意を決して目をやると、それはAとBだった。

 

下から何か叫びながら手招きしている。

そこでやっとAとBの声が聞こえてきた。

 

A「おい!早く降りてこい!!」

 

B「大丈夫か?」

 

この瞬間、一気に体が自由になり、

我に返った俺は、一目散に階段を駆け下りた。

 

あとで二人に聞いたんだが、俺はこの時、

目を瞑ったまま、一段抜かししながら、

ものすごい勢いで降りてきたらしい。

 

駆け下りた俺は、

とにかく安全な場所に行きたくて、

そのままAとBの横を通り過ぎ、

部屋に走って行ったらしい。

 

この辺は、あまり記憶がない。

恐怖の記憶で埋め尽くされてるからかな。

 

(続く)リゾートバイト(本編)4/14へ

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