リゾートバイト(その後)3/6

相談を受けた住職は、事の重大さを悟り、

すぐさま母親の元に向かいます。

 

そして、母親の横に連れられた子を見るや、

母親を家から引きずり出し、

寺へと連れて帰ったそうです。

 

その間も、その子は住職と母親の後を

ずっと付いて来て、奇声を発していたのだとか。

 

寺に着くと、まず結界を強く張った一室に

母親を入れ、話を聞こうとします。

 

しかし、一瞬でも子と離れた母親は、

その不安からかまともに話をできる状態では

なかったと聞きます。

 

ついには、子供を返せと住職に向かって、

ものすごい剣幕で怒鳴り散らしたのだそうです。

 

A「それでどうなったんですか?」

 

子を想う母は強い。

 

住職が本気で押さえ込もうとした、

その力を跳ね飛ばし、そのまま

寺を飛び出してしまったのだそうです。

 

坊さんは、少し情けなそうな顔をして

そう言った。

 

その後、村の者と従者を何人か連れて、

母親の家に行きましたが、

そこに母と子の姿はなかったそうです。

 

そして家の中には、どこのものかわからない札が

至る所に貼り付けられ、

部屋の片隅には、腐った残飯が盛られ

異臭が立ち込めていのだとか。

 

この時、俺は思った。

あの旅館の2階で見たものと同じだと。

 

そこにいた皆は同じことを思いました。

 

母親は子を失った悲しみから、

ここで何かしらの儀を行っていたのだと。

 

そして信じ難いことだが、その産物として

あのようなモノが生まれたのだと。

 

その想いを悟った村の者達は、

母親の行方を村一丸になって捜索します。

 

住職は、すぐさま従者を連れ、

もう一人の母親の家に向かいますが、

こちらも時既に遅しの状態だったそうです。

 

得体の知れないモノに語りかけ、

子の名前を呼ぶ母親に恐怖する父親。

 

その光景を見た住職は、経を唱えながら

そのモノに近づこうとしますが、

子を守る母親は住職に白目を向き、

奇声を発しながら威嚇してきたのだそうです。

 

現実味のない話だったのに、

なぜかすごく汗ばんだ。

 

村の者は恐れ、

一歩も近寄れなかったと言います。

 

しかし、住職とその従者は臆することなく

その母親とそのモノに近づき、

興奮する母親を取り押さえ、

寺へ連れ帰ります。

 

暴れる母親を抱えながら、

背後から付いて来るモノに経を唱え、

道に塩を盛りながら

少しずつ進んだのだそうです。

 

寺に着くと、

住職は母親をおんどうへ連れて行き、

体を縛り、

その中に閉じ込めたのだそうです。

 

A「そんなことを・・・」

 

Aが哀れみの声を出した。

 

仕方がなかったのです。

 

親と子を離すのが先決だった、

そうしなければ何も出来なかったのでしょう。

 

坊さんがしたことではないが、

Aは坊さんから顔を背けた。

 

少しの沈黙の後、坊さんは続けた。

 

母親の体には、自害を防ぐための

処置が施されたようですが、

その詳細はわかりません。

 

その後、おんどうの周りに注連縄を巻きつけ、

住職達はその周りを取り囲むようにして座り、

経を唱え始めたそうです。

 

中から母親の呻き声が聞こえましたが、

その声が子に気づかれぬよう、

全員で大声を張り上げながら

経を唱えたそうです。

 

住職達が必死に経を唱える中、

いよいよ子の姿が現れます。

 

子は親を探し、おんどうの周りを

ぐるぐると回り始めます。

 

何を以って親の場所を捜すのか、

果たして経が役目を成すのかも

わからない状態で、とにかく住職達は

必死に経を唱えたのです。

 

そこで、坊さんは一息ついた。

 

B「それで、どうなったんですか?」

 

Bの声は、恐る恐るといった感じだった。

 

おんどうの周りを回っていたそのモノは、

次第に歩くことを困難とし、

四足歩行を始めたそうです。

 

その後、四肢の関節を大きく曲げ、

蜘蛛のように地を這い回ったそうです。

 

それはまるで、

人間の退化を見ているようだったと。

 

その後、なにやら呻き声を上げたかと思うと、

そのモノの四肢は失われ、芋虫のような形態で

そこに転がっていたのだとか。

 

そしてそのモノは、夜が明けるにつれて

小さくすぼみ、最終的に残ったのが、

臍の緒だったのです。

 

俺は、坊さんの話に聞き入っていた。

 

まるで自分達の話に毛が生えて、

昔話として語られているような感覚だった。

 

すると、Aが聞いたんだ。

 

A「え、もしかしてその臍の緒って・・・」

 

すると、坊さんは静かに答えた。

 

今朝、おんどう奥の岩の上に

転がっていたものです。

 

B「マジかよ・・」

 

Bは、呆然として呟いた。

 

「なんで?なんで俺達なんですか?」

 

詳しくはわかりません。

 

この寺には、代々の住職達の手記が

残されていますが、母親でない者に

このような現象が起きた事例は、

見当たりませんでした。

 

何より、肝心の母親の行った儀式について、

これがまだ謎に包まれたままなのです。

 

B「母親に聞かなかったんですか?」

 

聞かなかったのではなく、

聞けなかったのです。

 

(続く)リゾートバイト(その後)4/6へ

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