深夜、部屋の丸窓から見た光景 1/2

とある、ヨーロッパの国に

留学してた時の話を。

 

まぁ言葉もままなら無い頃、

よく日本人の友達を家に呼んで

飲んでたんだが。

 

俺の家は屋根裏で、大き目の丸窓から

地下鉄の出口が見える。

 

そこはエスカレーターだけで

モロに出口専用なのだが、

 

怖いのは、たまに夜中過ぎに

意味もなく動き始めること。

 

夜中なもんだから車通りもなく、

音が良く響いて「ブーン」ってなるんだが、

 

これが怖い。

 

たまに丸窓から覗いて確かめるんだが、

これが誰もいない。

 

まぁそんなことがたまに起こる程度だった。

 

ところがある週末、

いつものように友達を呼んで飲もうと思い、

一番仲の良い画学生に連絡をした。

 

今ちょうど別の友達と飲んでたらしく、

家に来るとのこと。

 

一時間ほどして、そいつが来たわけだが、

連れはなんと可愛い女の子。

 

同じ学校で唯一の日本人で、

俺は羨ましいと思ったのを良く覚えている。

 

その3人で飲み始め、

芸術や最近のこの町のことを

語ったりしてた。

 

(俺は美術史の学生だった)

 

12時を過ぎ終電が無くなり、

治安もあまり良くない場所なので、

 

いつものように「泊まってけ」と言って、

また再び飲みだした。

 

丸窓の傍でタバコを吸っている俺の友達が、

「エスカレーター動いてるぜ」と。

 

時計を見たら2時過ぎ。

 

またかと思い、「たまにあんだよ」

と説明した。

 

すると、連れの女の子が興味をもったらしく、

「どれどれ」と、その丸窓を覗いていた。

 

「本当だ」と、

なんだかはしゃいでいた。

 

俺は俺で酒を飲みながら、

「独りでそれがあると怖い」

だのと、

 

あーでもないこーでもないと、

話していた。

 

実は、その娘が気に入りだしてたわけだが。

 

しばらく覗いている彼女が、ふと、

「誰かいるよ」と言って俺を呼んだ。

 

「まさかぁ」

 

酔っ払いかなんかだろうと、

隣から覗くと誰もいない。

 

「いないじゃん」

 

そう言って彼女を見ると、

「いないねぇ」と。

 

俺の友達も「誰もいるわけ無い」と言って、

タバコをふかしていた。

 

俺はトイレに行き、

友達はタバコを吸い終わり、

部屋で飲み始めた。

 

ところが、ずーっと覗いている彼女が、

いきなり「あっ!」と小さく叫んだから、

 

二人ともびっくりして

「どうしたん?」と聞くと、

 

「二人出て来たよ。お母さんと子供かな」

 

んな馬鹿なと思い、覗いてみるが

やっぱりいない。

 

「いねーじゃんか」

「そういう冗談好きなのか?」

「こえーから止めてくれ」

 

だの散々愚痴った挙句、

 

俺は眠くなったので

そのまま寝てしまった。

 

翌朝(むしろ昼近くだった)起きると、

俺の友達は眠りこけてたが、

 

彼女がいない。

 

まぁ始発か朝方にでも帰ったのだろうと思い、

気にはかけなかった。

 

が、別の意味で気にはなってたので、

その夜電話した。

 

電話して、昨日どうしたのか聞いてみると、

『寝れなかったから朝方早めに帰った』

とのこと。

 

やっぱそうかぃと思い、

どうでもいいような事を一通り話し、

 

なんとなく、

今度二人で遊ぼうと約束した。

 

電話を切ろうとした時、

『エスカレーターさ』

と話してきた。

 

なんで、あんなエスカレーターの話を

引っ張るのか?

 

その時は不思議で仕方なかったが、

「今日も動くかもなぁ」

と冗談交じりで話すと、

 

『今度動いても、あまり覗かない方がいいよ。

見付かるよ』

 

と彼女が低い声で言った。

 

あまりに低い声で言うものだったから、

その時は「マジで俺はびびりだから、

そういうのは止めてくれ」と、 

ちょっと本気で頼んだことを覚えている。

 

それから3日後、二人で会うようになり、

その日は彼女の家にお邪魔した。

 

俺は料理が出来るので、

(彼女は料理が全く出来ない) 

俺が夕食を用意して

二人で乾杯をした。

 

それ以来、俺は彼女と

付き合うようになった。

 

俺の画学生の友達は偉く無関心で、

「あっそ、おめでと」

ぐらいしか言わず、

 

それからもよく家に来て

飲んでたのを覚えている。

 

ところが、その交際も、

実はあまり続かなかった。

 

付き合い始めたのが、ちょうど今頃

1月か2月だったから、半年程度。

 

理由は、いきなり彼女が日本に

帰国したからだ。

 

帰る間際には、相当痩せこけていたのを

覚えている。

 

その時は「やっぱり俺がいても

寂しかったのかなぁ」と、

 

あぁでもないこうでもないと、

俺を捨てて帰国した理由を考えていた。

 

帰国前の二週間ほどは、

殆ど会ってもらえなかった。

 

おかげで別れもろくに言えず、

今もちと引きずっている。

 

ただあまりに逃げるように帰ったので、

俺は相当荒れた。

 

まぁその画学生の友達と、

「女なんかどうでもいい」だの、

「あんな身勝手な奴だと思わなかった」だの、

愚痴りまくっていた。

 

友達は殆ど頷くだけで、

あまり何も言わなかったのを覚えている。

 

それから半年して、

ちょうど一昨年の今頃(1月)、 

 

それから別の国のアート学校に

さらに留学した、その友人から

メールが来た。

 

『彼女が入院した』

 

なんでも、怪我とかじゃなくて

精神的なものらしい。

 

(続く)深夜、部屋の丸窓から見た光景 2/2へ

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