田んぼを斜めに挟んだ向こう側に

田んぼ

 

都市伝説に『クネクネ』という有名な話がある。

 

簡単に説明すると、それは白くてクネクネしていて、もし見てしまうと場合により精神に異常をきたすとされている。※参照:くねくね(Wikipedia)

 

そのクネクネとの関係はわからないが、これはクネクネについて父に教えた時に聞いた話。

 

「お父さんはそれの仲間を見たことあるぞ」

 

そう言って父は話し始めた。

 

/ ここから父の話 /

父の日課は『ぽち』の散歩。※ぽち=うちの犬

 

その日も夕方4時~5時頃に、ぽちを連れて歩いていた。

 

散歩コースは、家をぐるっと囲むようにある田んぼの畦道。

 

見えるものなんて、田んぼと畑、それにお墓くらい。

 

「うち、田舎だからね」

 

「その分、見晴らしはいいよな」

 

そう、見晴らしがいいから、人が歩いているのなんてすぐに見える。

 

時間帯的にも犬の散歩ラッシュなので、父以外にもちらほら犬を連れて歩いている人がいた。

 

向かいから人が来た時は、すれ違う時に挨拶なんかしたりして。

 

うちのぽちは臆病ですぐ飛びかかろうとするので、しっかりとリードで押さえて準備してからすれ違う。

 

もし他所んちの人や犬を怪我させてしまうと大変だから。

 

だから散歩する時は、いつも大体そんな感じになる。

 

その時も、向こうに黒い人影が見えた。

 

父は「あ、こっち来るかな」と身構えたが、田んぼを斜めに挟んだ向こう側におり、どうやらその人も同じ方向に歩いている感じだった。

 

それなら鉢合わないだろうと、そのまま歩き続けた。

 

「あの人も犬の散歩かな」なんて思いながら。

 

そのままその人が視界に入る距離で付いて行くように進んでいたが、道中で「あれ?」となった。

 

お互いの距離が変わらない。

 

どんなに急ごうが、ゆっくり歩こうが、距離が変わらない。

 

その人影の大きさが全く変わらない。

 

そして、気がついた。

 

その人があり得ないほど真っ黒なことに。

 

影になっていたとしても、見る位置が変われば少しは違ってくるはずなのに、太陽を背にしようが、右手にしようが、日向にいようが、影にいようが、ずっと真っ黒のままだった。

 

顔もわからないから、誰なのかわからない。

 

決して見えない距離ではなかったにもかかわらず。

 

普通なら誰なのか判別できる位置に、確かにそこにいる。

 

何だかわからない、人の形をした黒い影が。

 

父と一定の距離を保ちながら、それはうごめいていた。

 

父は途端に怖くなり、走って家に引き返した。

 

半分引きずられるように走らされたぽちが、不思議そうに父を見上げていた。

/ 父の話ここまで /

 

父は今でも変わらず元気に過ごしている。

 

正直、クネクネと何ら関係もない話かもしれないが、これを聞いた時、確かに同じような恐怖を感じたことを覚えている。

 

もしかするとクネクネの亜種だった可能性もあるのだろうか。

 

「もしあれ以上見つめていたら危なかったかもな」

 

父はそう言うと、あっけらかんとした表情で笑った。

 

(終)

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